第138話


「おはよう、桐堂。良い朝ね」

「……烏川か」


 目を凝りながら声が聞こえた方を見ると、ドアに腕を組んでもたれかかる彼女の姿が。


「結局、寝なかったんだな」

「言ったでしょう?私に睡眠は必要無いって」

「……そうだったな」


 相変わらず烏川の謎は多いままだ。まあ、信用は出来る相手ではあるが。


「さ、早いとこ校舎に向かうわよ。暫くの間鍛錬も無し」

「分かった」


 布団から起き上がり、荷物を用意する。


「………烏川」

「何?」

「席を外してくれないか?」

「なぜかしら?」

「着替えるから……」

「………ああ、成る程ね」


 烏川は合点がいったとドアノブに手をかける。


「外で待ってるわ」

「分かった」


 長いこと待たせるわけにもいかない。朝食もあとで買って教室で食べよう。


『……けて……』


「!?」


 誰かの声が聞こえた。


『たす……けて……』


「(また聞こえた)」


 たしかに人の声だ。位置は分からない。しかし、雑音の様なものと同時に倒れ伏す女子生徒の姿が脳裏に映る。


「(近くにいる……!)」


 慌ててドアの向こうの彼女に駆け寄る。


「烏川っ!」

「………何?」

「なんか、こう、説明しづらいんだが……助けを呼ぶ声が聞こえた!」

「場所は?」

「分からない………ただ、その人はどこかで倒れていて、助けを呼んでいた」


 なんの説得力もない言動。しかし烏川は、あたりを見渡して柵に足をかける。


「近くにいるのね?」

「あ、ああ……!」




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




「(少しずつだけれど、例の力が使えるようになってきているみたいね)」


 聖杯。人類を救い、人類を滅ぼし得る力。


「(視界に映る味方の強化、透視)」


 前任者はさらに相手の能力を奪い、自由に使用するという力を持っていたが、桐堂が使えるのはまだこの2つと言ったところか。


 つまりまだ完全には馴染んでおらず、力を最大限行使する事はできない。


「(責任重大ね、これは)」


 まあ兎に角、今はその助けを呼ぶ奴とやらを探しましょう。何か耳寄りな情報が得られるかもしれない。


 たとえば、そう。今回の侵入者とか。


「あ、桐堂。言い忘れてたけれど」

「な、なんだ……?」

「外に出るときくらいスボンは履きなさいな」

「〜〜〜!!先に言ってくれ!!!」




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