第131話


「おはようございます、お姉様」


 朝の鍛錬を終え、烏川と共に教室に入ると燕翔寺が烏川の腕に絡みつく。


「ええ、おはよう燕翔寺」


 ハァ。と、小さく溜息をついて本日2度目の挨拶をする烏川。


 そう。僕と烏川、そして燕翔寺は先ほどまで一緒に鍛錬をしていた。


 わざわざ2度目の挨拶をするためだけに先回りするのに何か執念の様な物を感じる。


「智恵でございます」

「………」


 マスク越しでも分かる。今の烏川の顔は引きつっている。


「智恵。と、お呼び下さい」

「分かったから、離して」

「とーもーえーでーごーざーいーまーすっ」

「ハァ………智恵。これで良い?」

「はいっ」


 満足そうに頷く燕翔寺。


「じゃあ離して」

「お断り致しますっ♪」

「チッ」


 心底嫌そうな烏川。そこでさらに厄介な相手がやってくる。


「あたしもまーぜてっ!」


 ガシッと捕獲される烏川。


「だめでございます、道尾様っ。お姉様はわたくしのでございます」

「貴女のモノになった覚えはないのだけど」

「いいではないかー、いいではないかー」

「だーめーでーごーざーいーまーすーっ!」

「暑い、怠い、鬱陶しい……」


 季節はもう夏。今の烏川は僕が見て来た中で一番追い詰められているように見える。


「見てないで助けなさいよ」

「いや、ちょっとな」


 何処かで聞いたことがある。女子同士の戯れに男が挟まろうとすると殺される、と。それに


「ちょっとって何よ。ねぇ、桐堂?ねぇってば」


 いつもの余裕が崩れた烏川の珍しい姿を楽しみたい。





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