第82話


「次は剣術において基礎中の基礎、素振りよ」


 そう言って何かを投げ渡される。


「(これは)」


 特殊カーボン製のダミーソード。以前烏川との鍛錬で使っていたモノと似ているが、形状が違う。


「あなたが使ってるロッカと同じ質量でオーダーメイドしてきたから。今日からそれを使いなさい」

「あ、ああ」


 しっかりと手に馴染む。やるからには全力で、ってことか。


「ありがたく使わせてもらう」


 早速素早く振りかぶり、振り下ろす。


「軸がズレてる」

「っぐ」


 最初から指摘されガクリと肩が落ちる。


「まあ、西洋剣術は専門外だけれど」

「いや、多分大丈夫だと思う」


 烏川が使うような刀。防御に転用しづらい分、長めのリーチと高い切れ味による「切り裂く」武器。


 逆にロッカはフォリンクリを相手に想定されて作られた剣。ライロー程ではないがそれでもそこそこある本体の重量と遠心力で「叩き切る」武器。


 全然違うように見える二つの武器だが、共通して言えることがある。


 剣だけではない、刃物全般に言えること。

 刃の向きと斬撃の向きが完全に一致した時にこそ、最速で最大の威力が発揮される。


 当たり前のことだが、動きが早く、武器が大きくなるにつれてそれは難しくなる。


「ちょっと失礼するわ」

「お、おう」


 後ろから手を回され、一緒に剣を握る形になる。鼻腔をくすぐる女子特有の甘い香りと触れた肌の感触に心臓がバクバクする。


「集中」

「うぐっ!?」


 気が散漫になっていたのが見抜かれ、ど突かれる。


「(そうだ、集中しないと)」


 深く息を吸って、吐く。すると少しだけ気持ちが落ち着く。


「ゆっくり上げて、そう。まっすぐ線を描くように」

「……」

「もう一回。ゆっくり上げて、下ろす」



「今日は30回、ゆっくりで良いわ。なにが何でも自分の腕にその動きを叩き込みなさい」

「……わかった」



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