第71話



「(……行ったわね)」


 走り去っていく桐堂を見届け、バリアを解除する。


「さて、と」


 純性エレミュートの貯蔵庫であった髪を切られ、出力は半減。変装のために頼りの小夜時雨は部屋。

 

 背中の損傷もかなり大きい。今の私にどれだけやれるか。


「そろそろ人間のフリはやめてください」

「はっ、どいつもこいつも失敬ね。貴女達と違って私は人間なの」


 悪態をついたと同時に右目に何かが直撃する。生暖かい液体が頬を伝う。


 油断をしたつもりは無いけれど反応しきれなかった。


「黙りなさいオルキヌス。貴女だということは初めから知っているんです」


 右側の視界を潰された。しかし、ここで引くわけにはいかない。


 ゆっくりと苦無を構える。


「まだやる気ですか」

「勿論」


 そして、ニヤリと笑ってみせる。


「自分で言うのはアレだけれど、私はしつこい上に結構しぶといわよ。精々油断せず殺すことね」








〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜







「はっ、はっ、はっ」


 鳴り響く破壊音。烏川はまだあそこで戦っている。


 行きはそこまでかからなかったと思ったのだが、意外と距離があった。


 時刻はもう21:00を過ぎている。


「(もう、少し……!)」


 さらにスピードを上げると、そこで学園の大きな寮の姿が。


「くっ、はぁっ、はあっ、はあっ」


 学寮の前に到着し、手を膝につく。随分走った様な気がする。


「……?桐堂様?」

「?」


 そんな時、上から聞き覚えのある声が。見上げると、そこには部屋着であろう浴衣を着た少女が。


「燕翔寺……」


 ここ最近、全然会話をしていなかったと言うより、話しかけられても無視していたせいでとても気まずい。


「こんな時間にどうされたのですか?」

「いや、その」


 しどろもどろになった所でもう一つの声が。


「あ、桐堂君」

「メラノ、さん?」


 メラノさんが燕翔寺の隣から現れる。友人同士でたまたま一緒に居たのだろうか。


「もしかして、怒ってる……?」

「何がですか?」

「いや、その、人形で……」


 人形なんか知らないが今はそんな状況じゃ無い。


「(早くしないと烏川が……)」


 そんな時だった。


 風を切って何かが飛来し、寮の壁に突き刺さる。特徴的な形状をした黒いナイフ。



 それは烏川の武器の一つだった。



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