第70話

ザシュッーーー


 テレサに斧を振り下ろされたが、痛みは無い。


「(……?)」


 咄嗟につぶった目をゆっくりと開く。


「無事、みたいね」

「っ!?」


 そこには烏川が、僕を背中で覆う様に立っていた。


「っ、ぐっ」

「烏川っ!?」


 グラリと倒れ込む烏川を咄嗟に抱き抱える。


 直後にあの黒い水の泡の様なバリアが展開され、烏川と僕を包み、テレサからの更なる追撃を防ぐ。


 背中には大きな裂傷。長かった黒い髪もその傷跡に沿ってバッサリと切られてしまっている。そして、黒い蒸気の様なものが傷口から溢れている。


 僕を庇って………?


「見てください桐堂さん!この粒子を!この娘は人間ではありません!桐堂さんの判断は正しかったと言えましょう!」


 もうテレサの言葉は耳に入らない。そこには醜い化け物がいるだけだった。


 烏川は剣を薙ぎ払ってテレサを退け、杖の様にして地面に突き刺し、ゆっくりと起き上がる。


「私がなるべく時間を稼ぐわ。その隙に学園内に逃げなさい」

「だ、だが……」


 どう見ても今の烏川の状態は立っているだけでもやっとの様にしか見えない。もう、限界だ。


「貴方を守りながらなんて、今の私にできると思う?」


 しかし、それで僕が戦力になるかどうかはNOとしか言えない。どういうわけか知らないが、さっきまで僕はテレサに心酔していた。


 いつまたあんな状態にさせられるか分からない。


 僕に目掛けて飛来した閃光を烏川が斬り落とす。


「分かった」


 こんなところでモジモジしていても仕方がない。そんな暇があれば傘草先生なりなんなり応援を呼ぶべきだ。


「助けを呼んでくる。それまでは持ち堪えてくれ」

「……それは命令?」

「ああ。頼めるか?」


 その回答に烏川はフッと少し笑う。


「なら仕方ないわね。いいわ、任された」


 そして烏川はナイフを構える。


「さあ、行きなさい」

「すぐに戻る!」


 そう言い残し、僕は学園に向かって全速力で駆け出した。


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