第67話



 テレサと浴びる夜風がとても心地いい。


 暫く一緒に歩いていると、ある建物に到着する。


「ここは・・・?」

「教会ですよ。私も良く、ここに来ます」


 そのまま中へ進もうとするテレサに、僕は立ち止まる。


「どうしました?」

「い、いえ、その・・・」


 なんだか少しだけ嫌な予感が。それに、宗教関係は少し抵抗がある。


「ああ、成程」

「・・・?」


 暫く首を傾げていたテレサだったが何か合点がいったのかウンウンと頷きだす。


「会員じゃなくても大丈夫です。誰でも自由に出入りして良いんですよ、ここは」


 自由なら、まあ、覗くくらい大丈夫か。


「さあ、行きましょう」

「ええ」


 テレサの言う通りに、そのまま中へ向かう。


「おや、テレサ様。こんばんは」

「ええ、こんばんは」


 中に入るとそこには美しい内装と、1人の男性が。


「そちらは・・・?」

「ああ、桐堂さんには紹介してませんでしたね。こちらこの教会の神父【シーモス】です」

「シーモスです。貴方にも【珠神しゅしん】の御加護があらんことを」

「あ、はい、どうも」


 主神……?


「桐堂さんも、自己紹介を」

「あ、そうでした」


 姿勢を正し、シーモスさんに向き直る。


「桐堂廻影です。えっと、向こうの武凪士学園に通ってます」

「成程……貴方が例の……」


 一瞬シーモスさんの表情が曇るが、また微笑んだ表情にもどる。


「こちらへどうぞ。今日は先程1人だけいらっしゃいましたが帰られましたし、ここ一番の良い場所をお教えします」

「良かったですね、桐堂さん」


 そのまま今度はシーモスさんに先導され、奥の方へ進む。その時だった。


 ドスッ


「え?」


 シーモスさんの腹部から2本の黒い刃物のような突起物が出現する。


「(いや、これは……!)」


 見覚えのある特徴的な形状。間違いない。


「よ、よせっ……」


 静止の声も虚しく、2本の刃は徐々にシーモスさんの腹部を切り開いていく。そして


「がっ・・・」


 ついにシーモスさんの胴体は真っ二つに引き裂かれる。その背後には僕をつけて来たであろう烏川。


 いや、オルカが立っていた。


「な、なぜ、なにもされていない……あの部屋は」

「喋るな」

「ゴッ」


 まだ辛うじて息のあったシーモスさんの心臓にあのナイフを投げ、さらに踏みつけて奥深くに突き刺す。


「次はお前よ。イカれ女」


 そう言って烏川は虚空からあの漆黒の剣を出現させ、テレサに斬りかかる。


「随分と手荒い方ですね。貴女が桐堂さんの言う、怪しい人物とやらですか?」

「さぁ?」


 ギリギリのところでテレサはその場にあったインテリアの斧でその刃を防ぐ。


「こんな所で何してるの桐堂。学寮の門限はもう過ぎてるわよ、さっさと帰りなさい」


 たった今人を殺したばかりだというのに何事もなかったかのように語りかける烏川。


「(異常だ……!)」


 僕はそう確信する。


 シーモスさん。


 今日知り合ったばかりでほとんど会話すらできていなかったが、こんな風に殺されて良いはずがない。


「なんのつもり、桐堂」


 呼び出したロッカを烏川の背中に向け、一歩踏み込む。


 勝てるか勝てないかなんか今は関係ない、ただ許せない。


「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 倒せなくても良い、せめて一撃だけでも。その一心で剣を振り下ろす。


「チッ」


 しかし……


「ホント面倒ね……」

「なっ!?」


 烏川はテレサを蹴り飛ばすと剣を消失させ、振り下ろすロッカを避けながら握る両腕の間にナイフを握った右腕を差し込む。


「(しまった!)」


 これでは防御ができない。


 そして


「ぐっ……!」

「手間かけさせないでくれる?」


 そのまま刃を首筋に当てられ、捕らえられてしまった。


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