第56話


『ーー、ーーーー』

「・・・・・ええ、分かったわ。うん、ありがと。じゃ」


 ピッ


 会議が終わり、学園への帰り道。車上で意外な相手からの通信を終え、通信機を切る。


「ふぅーっ」


 まさか、ね。


「誰からだったの?」


 そう運転席の紅葉さんからバックミラー越しに目を向けられる。


「ウチのボスからよ」


 まさか、直接連絡寄越してくるとは思ってなかった。


「へぇー。で、何て?」

「調子はどう?とか、お金は足りてるか?とか」

「アハハ、あの娘らしいや」


 そう言って紅葉さんは笑う。


 昔からそうだ、あの人は私に対してちょっと過保護な所がある。


「(私なんか、気にかけなくても良いのに)」


 でも、それが少し嬉しく思う。機会があれば、また昔みたいに一緒にゆっくり過ごしたい。


「さーて、もうすぐ着くよっ」

「ええ」


 橋をさしかかった所で制服と軍帽を脱ぎ、私用の帽子を被り、愛用のジャケットを羽織る。


 世界一の安全を約束された理想郷、化狩学園都市。ここからはもう敵地と考えて良い。


「ヘマはしないでよ」

「勿論っ♪」


 その時だった。


「「っ!」」


 橋が向こう岸に光が刺す。その上空には、人型の姿。次の瞬間、そこから照射される光に道路は穴だらけにされていく。


「チッ……!」


 車から飛び出し、バンパーに張り付く。そして純性エレミュートで形成したチェーンアンカーを射出する。


 向こう岸に撃ち込んだのを確認し、紅葉さんに目を向ける。


「対ショック用意、いいわね?」

「りょーかいっ!」


 一気にチェーンを巻き上げ、向こう岸まで吹き飛ぶ様に到着する。


「・・・・・」


「紅葉さん、生きてる?」

「一応ねー。うへぇ、死ぬかと思ったぁ・・・」


 よろよろと車から降りてくる紅葉さん。相当なGの中、精密な動作を要求されたのだから仕方がない。


「覚醒者が2人……一人は貴女だったんですね。オルキヌス」

「………」


 慈愛に満ちたその目、胸糞悪くなるほど気持ちが悪い。今すぐにでも地面に引き摺り下ろしてバラバラにしてやりたい。


「私が分かりますか?」

「誰よ。貴女のことなんかちっとも知らないわ」


 ただ私の奥底に眠る核(コア)が、コイツは危険だと警笛を鳴らす様に震えている。


「(貴方は今は黙ってなさい)」


「グルゥアルルルル……」


 そして、珍しくあの紅葉さんも歯を剥き出しにして臨戦態勢に入っている。


「(暁海ちゃん。コイツ、例の奴だよ)」

「(成る程ね)」


 コイツが、今日の会議で出てきた桐堂の護衛よりも重大な案件。


「忘れたのですか?薄情ですね、オルキヌス」

「ほざいてなさいよ」


 小夜時雨に手をかける。



「奴はここで仕留める」

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