本当の聖女は私だけど、全部妹の手柄になっています。富も権力も名声も欲しがっていたので、思いつく限り全部をあげました。

仲仁へび(旧:離久)

第1話




 お姉さまへ


 本当の聖女はお姉さまだけれど、全部わたしの手柄になっています。


 富も、権力も、名声も、全部全部、無抵抗に全てくれましたね。


 思えばお姉さまは小さい頃から良い人ぶってて、なんだかとっても鼻につく嫌な人でした。


 貴方と比べられる私の身にもなってください。


 でも、もう今さらです。


 ありがとうございます。


 今の私はとても幸せですから。







 私は手紙をしたためて、鳩に括り付けた。


 鳩は神聖な生き物として、扱われている。


 天からの使いだとされる話をいくつも聞いた。


 だから、人生に関わるもの、大事な手紙を人におくる時は、鳩を使うのが一般的だった。


 お姉さまは今日もこの手紙を読んでくれているに違いない。


 私は鳩の行先にいるだろうお姉さまへ感謝した。


「ありがとうございます、お姉さま。私に全てを与えてくださって」


 私は今、幸せだ。







 私はその手紙を今日も受け取った。


 私は本当の聖女として、多くの人から称えられているらしい。


 それはこれまでの手紙から分かった事実だ。


 その反面、偽物の聖女の立場は思わしくないようだ。


 今は、妹が私の代わりに聖女をやっている。


 私が持っていたものは全て、妹が代わりに手にしているだろう。


 手紙の文面からは、大変な状況の中でも幸せそうにしている妹の姿が、想像できた。


 今、彼女が持っているものは、全て私が努力して培ってきたもの。得てきたものだ。


 くやしくはある。


 けれど。


 きっとそれは、「当然」の事だから、仕方がないのだ。


 私から奪ったもので、どうか幸せになってね。


 私の大切な人。







 とある日、私は一つの墓の前に立っていた。


 墓には名誉の死を遂げた姉の名前が掘られている。


 姉の偉業はすさまじかった。


 本当の聖女だったのだから、当然だろう。


 誰もが姉に注目し、彼女が残した功績を褒めたたえた。


 けれどどんな偉業を成した人間でも、不治の病には勝てなかった。


 だから、私が姉のものを全て奪ってしまえば、きっと怒って奮起してくれる、と思ったのに。


 それなのにお姉さまは、とうとうベッドから一度も起き上がらないまま、天へと旅立ってしまった。


 羽ばたきの音が聞こえた。


 私の元に、手紙が括り付けられたままの鳩が戻ってくる。


 きっと姉のいる場所に届いてはいないのだろう。


 鳩は適当な場所で時間をつぶして、ただ元の場所に帰ってきたにすぎない。


 けれど、お姉さまは今日もこの手紙を読んでくれたに違いないと、そう思い込む。


 きっと悔しい想いをしてくれているはずだ。


 私の事をひどい妹だと思ってくれている。


 こんなただの紙きれを読むくらい、造作もないはず。


 だって、私の知るお姉さまはとてもすごい人だから。


 死んでいたって、魂だけになっていたって、天に召されてしまっていたって、手紙をあけずに、中身を読むなんて事、造作もないはずだ。





 お姉さまへ


 私は今、全てを手にしているので幸せです。


 次の聖女に選ばれたのは私なんですから。


 だから、お姉さまのものは、そっくりそのまま私の物。


 みんな奪ってやったんですから。


 ざまぁみろ。


 良い気味。


 こんな私は絶対に今、しあわ








 最近は手紙がこない日が多い。


 文字がにじんでいたり、かすれていたりして読めない日もある。


 心配だ。


 妹に何かあったのだろうか。


 生きている時、残される妹のために、遺言をしたためておいた。


 私の全てを、地位も、名誉も、財産も、譲れるようにしたのに。


 聖女にしか許されない、次の聖女の任命だって、きちんと妹になるようにしたのに。


 きちんと働けない聖女は、偽物だという烙印を押されてしまう。


 妹の力は私より弱かったから、もしかしたら比べられているのかもしれない。


 ああ、私が、生きていたら。


 妹に誇れるような誰から見ても立派な良い人として、その手を引いていくのに。



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本当の聖女は私だけど、全部妹の手柄になっています。富も権力も名声も欲しがっていたので、思いつく限り全部をあげました。 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

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