感想「あおに鳴く/あおに鳴く・続」
snowdrop
梗概 ネタバレあり
作品名:あおに鳴く/あおに鳴く・続
著 者:灼
出版社:一迅社
・梗概
二〇一四年四月。寡黙で大人びた、男子高校生になったばかりの嘉山司朗はある日、池の畔で記憶喪失の青年を助け、家に置くことにした。その男に一週間前に亡くなった祖父・菊次郎から一字を取り「菊」と名付けた。自身の名前はおろか、携帯やテレビもわからない菊。どうやら彼はこの時代の人間ではないらしい。
司朗と祖父が並んで映る写真をみた菊は、自分に家族はいるのか思いを馳せるも思い出せない。カレンダーを目にしたとき、いまが二十一世紀だと知る。
謎を抱えたまま二人の穏やかな生活が始まる。家事や洗濯、畑などをしていく菊はある日、疲労で倒れてしまう。実は悪夢によって眠れずにいた。そこで司朗は菊に添い寝をすることにした。うなされている菊に気づく司朗。彼の手を取り、菊はそのまま眠りにつく。傍に居てくれることで、ようやく安心して眠れるようになる。
サングラスを掛けた司朗の叔父・重澄に会うことで、物語が動き出す。司朗の学校へ行ったり司朗の同級生に会ったりする菊は、司朗が剣道をするのを知る。整体師の重澄の施術を受けて体が軽くなるも、一人で眠るとうなされることを知られる。
自分が添い寝しなければ菊はうなされるのか気になりつつも、司朗は部活の剣道に没頭する。
夕食ができたことを知らせに菊は司朗の部屋に行く。仮眠する司朗を前にし、思わずキスしようとする自分に気づく。司朗の部屋でみつけた、ゴム動力の模型ライトプレーン。司朗が祖父・菊次郎の部屋を掃除していたときに出てきたもので、飛ばした日に菊と出会ったことを語られる。寂しかったからではないと菊に言いながら、菊を呼んだのは自分かもしれないと司朗は吐露する。それを聞いた菊は「悪くない」と答えるのだった。
司朗の高校の友人が来訪する。お弁当を作ってきたから、と誘われた司朗はピクニックに出かける。帰宅すると、玄関に鍵がかかっていた。菊を探しに畑に向かう道中、二人が出会った、あの池の畔に座っている菊を見つける。
菊はこの日、司朗とやりたいことがあったが彼が外出したため出来ずにいた。察しのいい司朗は「俺を取られて寂しかった?」と微笑みながら問いかける。司朗を喜ばせるために何かしたかった菊は「俺が拗ねればいいのか」と怒って声を上げた。「そうやって居座ってりゃいい」司朗は真摯な眼差しを菊に向ける。動揺しつつも了承する菊。司朗は菊にキスをし、司朗から反射的に繰り出された裏拳をくらいかける。
司朗の友人から教えてもらった菊は、重澄の車で司朗が出場する剣道の試合を見に行く。男前の姿にしびれてしまう。試合のご褒美とばかりにエッチなことをして、互いの距離が近づいていく。
祖父・菊次郎の四十九日。お坊さんと叔父の重澄、祖父の友人でパン屋のカヨ子さんがパンをもって訪ねてくる。司朗にとってはいい祖父だったが、遺骨を海にまいてくれと遺言を残した菊次郎は「ろくでなしだった」と重澄から菊は聞かされる。
カヨコさんからもらったパンを食べて「こんなにおいしくなってるんだ」と驚く菊は、司朗や自分のことを知りたい気持ちが強くなる。
はじめて会ったとき、菊は特攻服を着ていた。コスプレでないなら、二十世紀前半の戦時中からタイムスリップしてきたかもしれない。司朗は、やがて菊が元の時代へ帰るかもしれないと不安を覚える。
終戦記念日、カヨコさんの店先でアンパンを食べる二人。菊は「食べたことあるぞ。こいつはかわらないんだな」と感想をもらす。
司朗の家にある本は小説が殆どで、歴史書がない。思い出したいかと尋ねる司朗に菊は「いや、甘えたい」と答え、司朗の傍にいたい気持ちを伝える。
司朗は思い出す手がかりにと、図書館の本や家の古いアルバムを菊に見せる。若い頃の祖父の写真を見たとき、菊は思い出す。菊次郎と司朗の面影が重なり、「俺はここに道連れを探しに来た」とつぶやく。写真の裏には「与田鴻」と書かれていた。
与田鴻は書生として、嘉山家に世話になっていた。
水鳥である鴻という字は、空と海を享受できるいい名前だといい、菊次郎は好んで「鴻」と呼んでいた。
聡明な菊次郎とは兄弟のように仲良くなっていく。ある雨の日、身体の弱い菊次郎の面倒を見るよう任されていたが、「籠もってたほうが悪くなるよ」と菊次郎は外出してしまう。止めながらも着いていく鴻。映画を見たり服を試着したり、アンパンをともに食べて楽しんでいると、菊次郎は咳き込み吐血してしまう。
大事に至らなかった菊次郎は鴻に世話してもらい、自宅で養生する。役目も忘れて浮かれていた自分を恥じて落ち込む鴻に菊次郎は「大丈夫だから」とキスするも、鴻から正拳突きを肩に食らう。「(相手は男の)俺ですよ」と一度は拒む鴻だったが、菊次郎の接吻を受け入れるのだった。
やがて鴻は嘉山家の養子となる。同じ頃、菊次郎に縁談の話が来たことを知るも、菊次郎は話題にすらしなかった。
わがままで聡明で優しい菊次郎と親密になれたことに舞い上がっていたと悟る鴻は、勤めを全うすることを優先しようと誓う。
戦争が激化していく。身体の悪い菊次郎は招集されないからこそ、世間は嘉山家を悪くいうかもしれない。ツテのない嘉山家を守るためにも、鴻は徴兵の召集令状が届く前に自ら入隊を志願する。
菊次郎の写真を撮影した鴻は、菊次郎に別れのキスをする。「お家のこと、御自分のこと、どうか大事になさってください」と告げて入隊していった。
菊次郎の結婚を祝福できない自分が嫌で彼から逃げる口実に、入隊を利用したのだ。
思い出した話を聞かされた司朗は、「祖父と似ている自分だったから好きになったのか」と言い、菊に冷たい目を向ける。
菊の心には、祖父・菊次郎がいることは明らかだった。
司朗は祖父の身代わりになるのは無理だから「二人目でいいから、俺への好きをちょうだい」とキスをし、二人は激しく体を重ねる。
事後、司朗は菊に「道連れってなに?」と尋ねる。
特攻する際、一人で死ぬのが嫌で誰かと死にたいと思った相手が「菊次郎だった」と菊は打ち明ける。
それを聞いた司朗は「誰かと生きたいにすればいい」と菊に告げ、祖父母が結婚して父が生まれ母と出会って「俺がここにいる。俺がいてうれしい?」かと尋ねる。「あぁ」と答えた菊だったが、その顔は寂しげで悲しそうだった。
部活から帰宅すると、ソファーで菊が寝ていた。一人では寝付けなかったはずなのに穏やかな顔をして寝息を立てている。自分がいなくても眠れるようになった菊の姿を前に、遠くに行ってしまったような寂しさを覚えた司朗は、菊の手を握り寄り添うのだった。
菊は叔父・重澄から、祖父・菊次郎は家族を愛せなかった人だったと聞かされる。戦死公報も受けたが遺体を確認してはいないため、嘉山の家を捨てたが名を残した誰かを、菊次郎はずっと待っていたという。家族を愛せない男の嫁と子供は、上辺だけで取り繕った中で愛されなかった。だから司朗の父親は司朗の母親は愛せても、生まれた子供である司朗を愛する術を知らなかったという。そして、司朗の両親は旅先でなくなっていたことを、菊は知るのだった。
菊次郎の一周忌が終わり、菊は「菊次郎さんの遺灰をわけてくれないか」と司朗に頼む。疑う司朗を抱きしめ、「司朗の事が大好きなんだ」と告白した。「ちゃんと話してくる。あの人への落とし前もつけなきゃいけない。司朗といたいから」菊は元の時代へ戻ると告げた。
特攻服に身を包んだ菊は司朗と池の畔に立つ。「あのときと同じ方がいいかなと思って」と、司朗はゴム動力のエアプレーンを飛ばす。別れ際、「司朗に呼ばれ、司朗に会いに自分は来た」と背中越しに話す菊に司朗は「俺を連れていきなよ」と言うも、菊は「これは為すための道しるべ」と答える。
「道連れはもう必要ない、心中してくれるなら、俺と生きてくれ」
菊は叫び、司朗と二人抱き合う。
そして、菊は消えた。
司朗の部屋の写真立てには、親子三人が笑っていた。
「アンタの願いは叶えた。次は俺の番だろ。鴻さん」
司朗は、菊次郎のエアプレーンを再び、青空へと飛ばすのだった。
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