田中ちゃんの冒険。

春野秋音

田中ちゃん。異世界に転移する。

第1話

 流されるままの人生だった。

 高校を選ぶときも、どこに行きたいという強い気持ちはなくて、「この成績ならこの高校を受けたほうがいい」という周りの言葉に従った。

 学級委員長を決めるときも、何人かに推薦されてそのまま引き受けた。

 自分の性格についてはこのままでいいのかなぁ、でも無理して変える必要あるのかなぁと思っていたら、教室の真ん中がひび割れていた。


 気を失っていたらしい。

 目を覚ますと、教室ではなく草原にいた。空にはドラゴンみたいなのが飛んでいる。「こっちこないで」と思っていたら、願いが通じたのか離れて行った。よし。

 次に起きて周りを見ると教科書やノート、机が転がっていた。おまけに黒板まである。

 最後に自分の体に目を向けると、見慣れた制服といつもの体があった。少しは成長していてもよかったのに。

 これは夢かなぁと思ったけど、いつまで経っても目は覚めない。ベタだけど頬をつねっても痛いだけだった。


 どうやら、どこかの異世界に転移してしまったらしい。転生ではなかったみたいだ。

 まぁこれまでの自分の人生に、赤ちゃんからやり直したいと思うほどの不満はなかったから、別にいいけど。

 ところで、転生ではなく転移なら、元の世界に帰ったほうがいいのかなぁ。



 

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