第6話 あとがきという名の津々浦々

仮に本題がここまで小説特化型みたいなタイトルでなければ、私は自己都合でいくらでも解釈を曲げて勝手気儘に書いた事であろう。

だが原作の音楽に耳を傾け、そして歌詞に注目して頂きたいのだが、この曲は文芸部員の日常を、陽だまりのような明るさと、のほほんとした空気でもって歌い上げているのである。


無論作家によっては書きやすい題材であろう。世界観がかなり細かく規定されているのだから。

だがここはアウトロー作家たる私の事、そうは問屋が卸さない。

何せ日常描写が絶望的に下手くそな私だから、四コマ漫画にでもした方が相応しい緩さというものが、とてつもない艱難辛苦となって襲うのである。

まるで野球のピッチャーに肩強いから砲丸投げも頑張れるよねと言わんばかりの無体であって、あとがきに添えて一度通読してみればなんて事はない、苦手な日常描写を最小限に留める愚策でもって、きりきり舞いの私は何とか判定勝ちに行くチキン戦法を取っている。

うむうむ、姑息ここに極まれり。でもいいの。ボクシングでは手数の多さと正確さで判定を狙うやり方はよくある。

見ている方はノックアウトの決着を見たいだろうが、そんなのは観衆の勝手であって、選手には関係ない。

まぁ私、選手じゃないからこの例えも意味不明かつ関係ないんですけどね。


さて頑張った事は全て知って貰い、そして出来るなら褒めて貰いたいという小学生張りの自己顕示欲と感性でもって『無口な少女と文芸部の僕』の秘話を赤裸々に語っていくとしよう。

早々に白状するが、行き当たりばったりである。この話にプロットはない。

一番苦戦したところはどこですか?と問われれば「オチ」と即答出来る。

執筆依頼の段階で歌詞や世界観について、作曲者と話し過ぎたのが、却って想像の自由を侵害したのも悪手であった。

またヒロインたる少女が無口というのも、キツイ要因であろう。

こやつが流暢に話してくれれば、いくらか手札の切りようもあろうが、いかんせんタイトルの段階からして無口なのである。歌詞の一部であったら気付かなかった体裁を取りつつ闊達に喋らせるところだが、流石の私もタイトルでお題付けされている設定を無視する暴挙に出る事は躊躇われた。

仕方なく、無口な少女は最低限の会話だけに留め、反面文芸部の僕には滅茶苦茶喋ってもらう事と相成った訳である。


その真骨頂ともいうべき場面は間違いなく三章の『機械御白州(おしらす)』であろう。これは完璧にその場のノリという奴で、とにかく会話だけで物語を進めてみようという魂胆から見切り発車したのだが、まぁ当然というか、解っていたというか、予想反する事無く綺麗に私を苦しめる結果となった。


思い返してみれば、この短編は苦労の連続であった。しかも、その多くが私自身に起因しているのであって、誰に責を求める事も出来ないから、一層歯痒い。


歯痒いついでにもう一つ、私は『機械御白州』の御白州が読めなかった。いいや、正確には『シラス』もしくは『オシラス』の読み方は知っていたのだが、まさか白州と書いてシラスと読むとは。

変換した際に、最初は私の読み方が間違っているのかと思ったものである。酒飲み、上戸、左利き、まぁ呼び方は何でもよいが、その手の手合いであればウイスキーの読み方を思い浮かべるであろう――という特殊な場合を除き、自身が読めない漢字だけにルビを振るという親切心の欠片も感じさせない私の秘話をここに打ち明けておく。


さてさて、あとがきも佳境を超えて後は毒にも薬にもならない、平々凡々の下り坂であるが本編同様『オチ』がない。

別にあとがきだからといって、何か面白い事を言わなければならぬ縛りとかも無いのだが、私の変なポリシーのようなものが自縄自縛となって、最後の一文を必死に探し当てようとしているのである。

いやいや、一人勝手に緊縛生活で苦しんでいろというのは、ここまで読んで頂いた読者にしては冷たい仕打ちであろう。

毒を食らわば皿までの精神で最後までお付き合い願いたいのだが、もはや思考回路は袋小路の鼠状態であって、下手な考え万事休す。

毒を以て毒を制するばかりか、毒を以て毒を制せなかった哀れな愚者が、ここに一人あとがきの結末として散っていった事実だけを書き記し、今回の短編の終わりとする。

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無口な少女と文芸部の僕 @kinnikusizyosyugi29

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