第9話 男子高校生から脅される




 

 そのころ、藍子にはいやな出来事が重なっていた。


 週末、春花と連れ立ってショッピングモールに遊びに行ったときのこと。

 すれちがった男子高校生のふたり連れが、乱暴な言葉を投げつけて来た。


「おい、ちょっと見てみろよ」

「ありゃりゃ。みごとにぶっさいくな子だなあ」


 自分に向けられた言葉だと気づいた藍子は、さりげなさを装い、ことさら明るく春花に話しかけたのだったが、その日、どのように帰って来たのか覚えていない。


 別の日。

 駅裏の人気の少ない道をひとりで歩いているとき、自転車に乗った男子高校生に「おい、おまえ。おれの顔になんか付いてんのか? じろじろ見るんじゃねえよ」思いもよらない言いがかりをつけられ、大慌てで逃げ帰って来たこともあった。


 パラッとした顔のパーツのなかでも、とくに目が大きい藍子は、そのために無用な誤解を受けやすく、ずっと一緒にいるクラスメートにさえ「ねえ、さっきからこっちを睨んでいるけど、なに? なんか怖いんですけど」と言われたりした。

 

 ――なぜわたしには辛い出来事ばかり起こるのだろう。

 

 再び覗きこんだおばあちゃんの手鏡のなかで、藍子の目は真っ赤に潤んでいた。

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