第4話 雨にも負けず
1時間目は藍子の得意な国語だった。
先週につづいて宮沢賢治の詩の朗読。
まず担任の小泉朝子先生が読み上げる。
そのあとで、子どもたちが声を揃える。
――雨にも 負けず
風にも 負けず
読むたび感動せずにいられない、大好きな出だし。
――雪にも 夏の暑さにも 負けぬ
丈夫な からだを 持ち……
みんなの声にまぎれ、藍子も小声でたどってゆく。
だが、ふつうに読めたのは最初の数行だけだった。
――欲はなく 決して 怒らず
いつも 静かに 笑っている
とつづくころには、ずいぶんと怪しくなって来て、
――日照りの ときは なみだを 流し
寒さの 夏は おろおろ 歩き……
のあたりでは、くちびるが小刻みにふるえ始め、
――みんなに でくのぼうと 呼ばれ
褒められもせず 苦にもされず
とつづくころには、ほとんど読めなくなって、
――そういうものに
わたしは なりたい
と結ぶころには、みんなの声に隠れて忍び泣いていた。
*
教科書からはみ出た机に、黒々と乱暴な落書きが見える。
――ドテカボチャ!
太い油性マジックで殴り書きされた稚拙な文字、それに絵。
藍子の目のなかで、教科書も落書きもゆらゆら滲んでいる。
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