第47話「戦鳥たちの帰還」
”無事『鋼翼の7人』が帰還できたことを、竜神に感謝いたします”
映画『鋼翼の7人』ラストシーン、リィル・ガミノの台詞より
Starring:南部隼人
8機の戦闘機が降り立った時、島民たちは千切れんばかりに手を振り彼らを出迎えた。
操縦席から飛び出した南部隼人は、真っ先に陸戦の経過を尋ねた。そして返って来た明るい報告に安堵する。
「ヘルマン少佐から入電。敵の上陸部隊と停戦交渉中です」
いちど上陸してしまえば、敵が迫る中艦隊に収容する時間もない。かと言って条約軍の艦隊がくれば艦砲射撃で叩きのめされる。戦闘は中止せざるを得ないが、島の防衛戦力が僅少なうちに有利な条件で停戦を結んでおきたい。そう言う腹積もりらしい。
穏当な手ではある。
それだけ思いきりの良さがありながら、ガミノ艦隊の手並みには思う所もあった。今のところは向こうも色々あるのだろうと思うしかない。
公私混同を承知でアレクセイ・レスコフ軍曹の安否を問い合わせて貰ったところ、元気すぎて困るとの返事が来た。胸を撫でおろす。
そして、やはり気になるのは彼だった。
「大丈夫ですよね? 足ありますよね?」
涙目になって何度も聞いたら、煩わしくなった彼、菅野
「ありがとうございます!」
いつもながら痛かったが、それ以上に嬉しい。
「それにしても、あの状況からどうやって戻ったんです?」
「何とか着水できたからな。ここまで泳いできて、再出撃の機会を待っていた」
泳ぐって、ここは北の海である。
「そ、そんな天気が晴れるまで待ってたみたいな……」
「同じことだろ? 約束した以上は全力を尽くす主義だ」
がははと笑う菅野直。
やっぱり菅野は菅野で、”デストロイヤー”なのだった。
「それはそうと……おかえりなさい大尉!」
菅野ははにかんだ笑いを浮かべると、隼人が差し出した手帳をしっかりと受け取った。
「どうだね南部中尉、わし、現役でも行けるだろう!? そこら辺をエルヴィラ嬢に強調しておいてくれ給えよ?」
「ええ、一筆付けさせて頂きますよ。『私の危機を救ってくれたもっとも信頼する上官』とね」
「わはは! その言葉忘れるなよ!」
ワルゲス中佐は隼人の背中をバンバン叩きながら、大ぶりな仕草で自分の手柄を吹聴している。
実際、旧式の〔
どのように
「これも立派な撃墜ですよ。見事なマニューバキルでした」
歴戦のサミュエルも、彼の撃墜記録に太鼓判を押した。何しろ
どのように撃墜しようが、敵の戦力を喪失させれば戦争に貢献したことは変わりない。偶然によるものかどうかなど些末な問題である。
「どうだね? これで娘が誇れる父親になれたかね?」
胸を張る中佐に、サミュエルは晴れやかに言った。
「ええ、素晴らしい父親ですよ」
「お嬢様!」
ミズキ・ヴァンスタインは着陸するなり、早瀬沙織機の胴体ハッチを開け……、大変嫌そうな顔をした。
「……うえっ」
「『うえっ』とは何ですか! 大変だったんですから」
自分の吐しゃ物にまみれて、ぐったりした表情のリィル・ガミノが文句を言う。
「頑張りましたね。ですが、まずお風呂に入りましょう。抱きしめるのはその後で」
わざとらしく鼻をつまんで見せるミズキには苦笑するしかない。
「ハッチを開ける前にはあんなに必死そうな顔をしてたのにな」
「……髪の毛全部
いつもの過激な返答も、彼女らしくなく隼人をキッと睨みつけるのだからにやにや笑いしか返せない。
「私は気にしませんっ!」
コックピットから飛び出してきた早瀬沙織がリィルを抱きしめる。
「……沙織、ありがとうございます」
「どういたしまして!」
2人を見つめながら、ミズキが拗ねたように黙り込む。
「あー、それは『意地悪しないでとっとと抱きしめてやればよかった』って顔だな」
「……指の爪剥がしますよ?」
「お前、割と分かりやすい性格だったんだな」
ぷいと顔を逸らすミズキに、隼人は肩をすくめて見せる。
「南部、今回は、いや今回もお前の勝ちだ。だが不戦敗にならなかった事は礼を言うぞ」
握手を求めるグレッグ・ニールだったが、付け加える事を忘れなかった。
「次は俺が勝つがな」
「不戦敗を免れたのは俺の方だよ。中尉、いやグレッグの一言は効いた」
隼人もまた差し出された手を握り返す。
とりあえず部屋に帰って飯をたらふく食い、そして腐るほど寝たい。
そんな事を考えていると、飛行場の隅で仏頂面を浮かべている
「よっ! お疲れさん」
しゅたっと手を上げて挨拶するが、リーム・ガトロンの返事はいつも通り恨み節だった。
「おかげで私の
もちろん隼人は気にしない。
「嫌なことを忘れたいなら、バランタインだろ?」
「……別に30年物じゃないけど?」
リームはボトルを開けて、一口あおると、隼人に投げてよこす。久しぶりのウィスキーに、体に熱気が走りぬけた。
「それ、あげるわよ」
「おいおい、安いもんじゃないだろ?」
「あいつと言い合いになった事があってね。『自分の方が絶対酒が強い』って。それで、どっちが強いか白黒つける為に取り寄せて、試す暇もないままそれっきり。あんたも色々吹っ切れたみたいだし、私もそう言うのは止めにするわ。だから、飲んじゃって」
隼人は「そっか」と相槌を打つと、リームの手を引いた。
「せっかくのいい酒なんだから、皆で飲もうぜ? いい加減俺やあいつ以外に友達作らないとな!」
「私がぼっちみたいに言うんじゃないわよ! あと、何でしれっと自分を入れてるわけ!?」
ぎゃーぎゃーとふざけ合っていると、テンションが最高潮になった沙織が割り込んできて、リームに抱きついた。
「私たちはもう友達じゃないですか! そうですよね中尉?」
「ちょっ、あんた何処から!? なんかゲロ臭いんだけど!」
嫌そうにしかめっ面をするリーム。
だがバレバレだ。これは内心で嬉しい時に出す表情だと。
「まったく、素直じゃない人は困ります」
いつの間にか手にしたボトルを傾けながら、ミズキが言う。
「いや、お前が言うな。って言うか、いつの間に飲んでるんだよ?」
お祭り騒ぎに閉口しつつ、隼人はここに帰ってこれた事を嬉しく思う。
やっと。
やっと守り抜けた。
だから、心からの言葉を贈ろう。
「ありがとな」
静かにつぶやいただけだったが、仲間たちはそっと笑いかけてくれた。
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