第4話ー①
王都を囲う大きな壁門が見えると、おじさんから荷馬車に積まれている木樽の中に入るよう言われた。
「えー、やだよー」
「まあそう言うな。色々とこっちにも都合ってもんがあるんだよ。それともなにか? 怖いのか?」
「ううん。怖くはないけど……」
「だったらこの中で少しの間、静かにしててくれねえか」
珍しくおじさんは困り顔を見せた。
どうして、こそこそ隠れる必要があるのか気にはなったけど、他でもないおじさんが言うんだ。
「うん。いいよ。わかった」
「悪ぃな。あとで美味いもんいっぱい食わしてやるからな。良い子にしてるんだぞ」
「うんっ」
☆
そうして壁門に着くと、門番さんのような人たちが十人くらい居て、積荷のチェックを始めた。
その様子をわたしは樽の隙間から見ていた。
順番がまわってきたら、びっくり箱のように「わぁ!」って飛び出せばいいのかな? なんて思っていると──。
「おぉっと。その樽には触れるなよ」
「何言ってんだよゼンさん。密輸でもしちまったんですかい?」
「「「あはははは」」」
門番さんたちは一斉に笑いだすも、騎士団の人たちは誰一人として笑っていなかった。
「まぁ、そう硬いこと言うなよ。ほら、これ取っとけ」
おじさんは門番さんの手になにかを握らせた。
「……嘘、ですよね?」
それを見て、門番さんはおののくように尻もちをついてしまった。
「あ、あのドケチで有名なゼンさんが、銅貨を……一枚……くれた……」
その言葉を聞いて、一斉に門番さんたちの表情が曇る。
旅の途中でおじさんから色々と教えてもらった。王都にはわたしが産まれた村にはない“お金”ってものがあるらしい。
確か……。銅貨一枚でパンケーキが食べられると言っていた!
「あのドケチのゼンさんが……?」
「なんの冗談だよ……」
「嘘だと言ってくれ……」
「まぁ、そういうこった。お前らは樽の中を確認したが、なにもなかった。いいな?」
そう言うとおじさんは、他の門番さんたちの手にも銅貨を握らせた。
えーと全部で銅貨が十枚だから……。パンケーキ十枚分!
甘菓子ひとつケチるおじさんをずっと見てきたからわかる。きっとこれは、とんでもないこと!
その予想は的中したようで、門番さんたちの顔は青冷めていた。
そうして、なにごともなく? 門を出るとおじさんが樽を開けてくれた。
「もういいの?」
わたしが、そう尋ねると、
「ああ。門さえ通っちまえば後は自由だ。だから検問がうるせーんだけどな」
「そうなんだ」
とは言ったものの内心、どうして樽の中に隠れる必要があったのか不思議に思った。
そんな様子が顔に出てしまっていたのか、おじさんは話始めた。
「嬢ちゃんが王都に入るには戸籍やら市民権っつーのが必要でな。手続きがめんどくせー上に、そこまでやっても発行されるのは下民の許可証のみだ。……ちっとばかし難しいか?」
「うん。わかんないけど、なんとなくわかる!」
「ははっ。まーあれだ。今の嬢ちゃんの立場を一言で現すなら、密入国ってやつだな?」
薄っすらと脅かすような笑いを向けてきた。
この顔は知っていた。おじさんってわかりやすい人。
「そーなんだ! おじさんに任せる!」
「お、おう。俺の言うとおりにしてれば大丈夫には違いねえが。まあ、なんだよ。あまり人のことを信用し過ぎるなよ?」
「うんっ。おじさんの言いつけは守るけど、他の人の言うことは聞かなーい!」
「ば、馬鹿野郎が! 調子が狂っちまうよ……。ったく、もう」
おじさんって本当にわかりやすい人!
この時まではそう思って居た。この後、おじさんはいくつもの不可解な行動を起こす。
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