第22話 酒だ酒だ!
「では皆さんお集りいただきありがとうございます」
俺様の周りには50名くらいの下級貴族が集まっていた。
彼らの視線はとても鋭く、俺様と太陽将軍をにらんでいた。
彼女自体も貴族なのだ、だからこそ貴族でもなんでもない俺様の話を聞くことなどプライドが許さないのだろう。
「さて、皆さん、あなた達に飲んだ事のないお酒を提供しましょう」
「はん、バカにしやがって、貴族は色々な地方に出かける事がある。その時に色々なお酒を飲んでいる。貴族ほど酒を理解している人種はいないだろう」
「そうですか、では俺様が紹介するウイスキーとビールとカクテルについてはどうですか?」
「な、なんと、それは聞いたことがない」
「どこの国の酒なんだ」
「の、飲ませてくれ」
「皆さん落ち着いてください、飲んでからこの3種類のお酒をこの国の名産として広げていく事に納得していただければ、手を挙げてください」
貴族達の元へメイド達がお酒の入ったコップを1人3個ずつ運んでいった。
ウイスキーとビールとカクテルを始めて飲んだ時、俺様の中でスパークしていた。
こんな最高なお酒はこの世界にはなかった。
異世界とはどれだけ素晴らしい世界なのか、俺様は考えさせられたのだ。
数分待っていた。
1人また1人と手を挙げていた。
彼等は信じられない眼でこちらを見ていた。
だが1人だけ手をあげない人がいた。
その人はピンク色のドリルヘアーをしている生粋の貴族令嬢のようだ。
顔色はとてもよくて、寂しげな視線をしていた。
彼女はこちらを見てにこりと優しく微笑んだ。
「いかがですか?」
「はい、とてもおいしいお酒です。ですがわたくしはお酒を大量には飲めないのです」
「では、ノンアルコールというのを飲んでみませんか」
「そ、それはなんでしょうか」
「これはアルコールが入っていないお酒です。ジュースみたいなものですが、その味はお酒です。身体的にアルコールを受け付けない人の為の飲み物と言っても過言ではないでしょう」
俺様はメイドを呼び、ノンアルコールを皆にも配った。
貴族達は1人また1人と手を挙げて行った。
その中に先程のピンクのドリルヘアーのご令嬢がいた。
彼女はゆっくりとこちらに近づき、貴族らしいお辞儀をすると微笑んだ。
「わたくし達のグルマン商会は今日からあなたの配下となる事を誓いましょう」
周りの貴族達が1人また1人と首を横に振っている。
「よさんか、グルマン商会はこのテネトス国の希望の光、誇りなのだぞ」
「グルマン商会がラルガルシア王国の素性もわからぬ奴の部下になるなど許せん」
「黙りなさい、皆さま、この方はこの世界を変えてくれるかもしれないのですよ、ノンアルコール飲料の作り方など到底、今のわたくし達には到達できない代物ですわ、それをこの方はノンアルコールだけではなく、ウイスキーとビールとカクテルまで開発してしまった。しかもこの方はこちらを倒した国側なのにわたくし達の国を立て直す為色々としてくれるのですわよ」
ピンクのドリルヘアーをしているグルマン商会のきっと代表が熱く語っている。
1人また1人と頷き。
その時、1人の老婆が拍手していた。
「メルルナよ、あまり他の貴族を論破してはいけませんわよ、淑女たるもの、どんな時でも冷静沈着でいないといけないわよ」
「はい、おばあさま、ごめんなさい、わたくしは初めて具合が悪くならなくお酒を飲めたのです。とっても感動しているのですわ」
「あらまぁ、そこまでお酒を飲みたかったのですわね、ですがメルルナが飲んだお酒はお酒の味をしたお酒ではないものですよ」
「それでもお酒の味を味わってみたかったのですわ」
「それはそれは、では、グルマン商会はレイガス・トッド・ニーアス、通称殺人鬼ピエロの下につきますわ、これからラルガルシア王国とテネトス国は1つになる。いえ2つの国は滅んだも同然、王様がいない国をつくりましょうわね」
老婆はにこにこしながら、しわくちゃの顔をゆがませていた。
どうやらメルルナと呼ばれたピンクのドリルヘアーの令嬢の祖母が代表をやっているようだ。
俺様はそのやり取りを唖然と見ていたが、一瞬にしてメルルナはこちらに歩いてくる。
「勇者と魔王の末裔の方はどこにいるのですか? 同じ女性としてお話がしたかったのですが」
「ナナニアには別件で仕事を頼んであります」
「あら、残念ですわね」
「これがウイスキーとビールとカクテルとノンアルコールの製作資料です、これがあれば大量生産も可能でしょう、出来るだけ他国には漏れないようにしてください」
「はい、ありがたく受け取りますわ」
ウイスキーとビールとカクテルとノンアルコールの製作方法の載った本を受け取ってくれた。
この本はテレフォンブックから購入したものだ。
本の中から本が出てくる奇妙な体験は、なんか変な感じであった。
「あなたは何者なんですか? なぜ殺人鬼になったのですか?」
「色々と理由がありましてな、俺様は悪を殺す殺人鬼なのです」
「でも悪を殺したのになんで殺人鬼なんですか?」
「そうだね、皆からは正義でも裏では悪をこなしてきた奴らを殺してきた。皆は正義を殺されたと思い俺様を悪とした。しかし裏で悪をしてきたから、裏は助けれた。残念ながら人々は助けられた裏の人達の話を聞かない」
「まぁ、そういう事ですのね」
「全ては俺様の未熟が招いた悲劇だ。さて、俺様は仕事に取り掛かる。これを渡しておこう」
「これはなんですか」
「スマートフォンという奴でな、異世界では連絡手段になる。あと色々なアプリとやらをダウンロードして機能を楽しめる。本来は電波基地みたいなものがないとダメみたいだが、魔力でそれを補うよう改造されている。結構高かったんだぜ、勇者にも持たせてるしな」
「なるほどですわ、わぁ、ピンク色の四角い箱みたいですわ、とても薄い箱ですわね、これはどうやったら蓋を取る事が出来るのですか?」
「これは画面にタッチしたり横についているスイッチを押して起動する。これがマニュアルだ。覚えておいてくれ」
「わかりましたわ、試しに電話するので、ちょっと離れますわ」
「そうしてくれ」
【もしもしですわ】
【ちゃんと聞こえてるぞ】
【わぁ、魔法ですわ】
【これは魔法ではなくて、機械と呼ぶらしい】
【なるほどですわ】
【その携帯は一度使うと持ち主を決める。落としても壊しても、投げても君の所に戻ってくる。覚えておくように】
【了解しましたわ】
【では仕事に戻る】
【はいですわ】
俺様は先ほどの老婆が大勢の下級貴族達をまとめ上げている姿を見ていた。
本当に何者なのだろうかと俺様なりに疑問を抱いたりした。
その時だった集会を開いた大きな建物の一部の壁が破壊された。
そこから2人のおっさんとお爺さんが転がってきた。
それをナナニアが右手と左手で掴んでいた。
2人のおっさんとお爺さんは真っ青になり。
「ったくさ、めんどくさいったらありゃしない、剣聖と魔聖を探すの苦労したわよ」
「ご苦労様、さて、剣聖さんと魔聖さん、なぜ逃げたのですか?」
剣聖と魔聖は怯えていた。
「死にたくなかったからだ」
「あんなの無理だ」
「あなた達の逃げるスピードは異常でした。もう戦う前、つまり敵がいない時から敵が来ることを知っているようでした。バビロニア卿達が怖かったわけではないだろう、お前ら破壊神の存在を知っていたな」
「は、はは、ははは、あんなの無理だ。脅されてた。随時連絡してた」
「あんな化け物倒せるわけねーだろうがよ」
それから2人は知っている事を洗いざらい説明してくれた。
その話で分かったことは、2人が訓練に出かけた山で謎の5歳の少年に遭遇、圧倒的な力で叩き伏せられる。バビロニア達を指名して出会う事になったと。
つまりバビロニア達が英雄の子孫である事を知っていたのだ破壊神は。
こんな茶番を繰り広げたのも、彼らの目的は。
「あいつらの目的は遥か昔に起きた神々の戦争の再現です」
「あいつらは神そのものではなく神に近い人達です。神そのものを倒すといってました。そして世界を1にしてスタートさせると」
次の瞬間、剣聖と魔聖を顔がぶくぶくになっていく。
ぐちゃぐちゃになり、まるで皮膚中に風船がうごめいているようだ。
「だ、だからあああ、いいたくなかったんだああ何かしかえてるってえあがあああああ」
「もっとおおお、いきたかったのになあああああ」
剣聖と魔聖の皮膚がぐちゃぐちゃになり、そこには肉の塊が2つしかなかった。
次の瞬間、爆発した。
肉の塊の爆風が俺様に直撃した。
俺様は後ろに吹き飛びながら、走馬灯を見ていた気がした。
壁に頭から激突して、地面に叩きつけられる。
そのまま反動で立ち上がり、周りを見る。
やっていることはサーカスのピエロ喜劇そのものなのだが。
「めちゃくちゃいてーぜよ」
剣聖と魔聖が死んだ。
それも恐ろしい力によって。
周りの下級貴族達は恐怖で顔がつっていた。
俺様の偶然できた喜劇を見て、彼らは爆笑してくれた。
俺様はにかりと笑ってしまったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます