第43話
ザシャが率いる3000の討伐軍に対応すべく、デニスは新たな戦力を得ようとしていた。
その方法とは、新たな村人たちによる義勇兵団を作るという作戦だった。
「正直言えば即戦力とは言えないが、無い物ねだりはできないな」
デニスは近くに新設された村に次々と伝令を送り、意思を伝えた。
曰く、新たな脅威が迫っていると。曰く、君たちの力を必要としていると。
曰く、自由のために戦わないかと。
デニスの真摯な願いにより集ったのは最終的に300人の村人を集めたのだった。
「これだけ集まれば十分だな」
デニスはダンジョンの前に集まった様々な種族の義勇兵たちを見て、そう呟いた。
「敵の3000には到底届かなくてもいいのか?」
「獣人族の援軍、それにエメが集めて回っている魔族の残党が期待できる。寄せ集めでも少しはマシさ」
そう、エメは今ここにいない。
エメは更なる戦力を得るため南に向かい、魔族の戦力をかき集めているのだ。
「あれでも魔王の御子息だ。それなりに集まるはずさ」
「デニスがそう言うなら、信じよう。エメを」
デニスも義勇兵を集めてはい終わり、ではない。集まった義勇兵たちにはそれなりの選別のため、特訓を課す算段をしていた。
「これより義勇兵となるための特別選抜試験を行う! 皆、残れるよう期待する」
デニスの宣言により、義勇兵候補たちは俄然やる気になった。
まずは義勇兵候補たちの基礎体力試験だ。
「私が皆の基礎体力を見てやる! 全員、私について来い。それだけだ!」
ヨーゼは突然走り出すと、義勇兵候補たちはもちろん慌てた。
「どうした! このまま全員不合格になるつもりか!」
ヨーゼの喝により、戸惑いながらも義勇兵候補たちは走り出した。
ヨーゼの走りは鎧を着たまま、それでも軽やかに森の中を走る。
それを追いかける義勇兵候補たちは必至に走るも、まったくヨーゼに追いつけない。流石に元王国騎士団長、生中な体力ではない。
そのままヨーゼは森の中を走り続け、戻ってきたのは夕刻になった頃だった。
「僕なんて朝から夜通しまで走らされましたよ……。しかも武器と盾を持ったまま」
「俺も似たような特訓をさせたがそこまで厳しくして無いはずなんだがな……」
ヨーゼが軽い汗を流してダンジョン前の広場に戻ってだいぶ経ってから、義勇兵候補たちはへとへとでたどり着いた。
皆の顔はかなりの疲労が見え、全身全霊を掛けたのがよく分かった。
「よし、ここまで! 辿り着いたのみ次のステージに進ます!」
ヨーゼが区切りをつけたのは見える限り最後の集団が到着してからだった。
「思ったよりも残ったじゃないか。中々根性のあるやつが集まったな」
「私もここで半数は振り分けるつもりでしたが……少々甘くしてしまいました」
「あまり厳しくして誰も残らなかったら、それはそれで困るけどな」
その日は走り込みだけで終わり、次の日はゴロウによる膂力(りょりょく)のテストだ。
「さあ、全力で押してこいでござる!」
ゴロウのテストはいたって簡単だ。ゴロウにぶつかり、その力量を測るというものだ。
義勇兵候補たちは様々な方法でゴロウに挑みかかった。
普通に組みかかり、全力で押す者。蹴りや拳で襲い掛かる者。フェイントをかけて横や後方から挑みかかる者。多種多様な戦略が見られた。
ただゴロウの方は仁王立ちのまま、野菜の良し悪しを選別するかのように容易く義勇兵候補者たちを捌いていった。
「合格! 次。不合格! 次。合格! 次。合格! 次。不合格!」
ゴロウは順に向かってくる者たちを変わった体術を使い、コロコロと転がす。
デニスが知る限り、それは「ジュウジュツ」と呼ばれる東方の体裁きであった。
「よし! 終わりでござる。皆の者ご苦労である!」
そうして選抜された者は最終的に200名。中々の数である。
「ちょっと甘めに選んだんじゃないか!」
「そうでもないでござるよ。この者たち、中々気骨のある者ばかりでござる。ヨーゼ殿もそう思うでござるよな」
ゴロウがヨーゼに同意を求めるよう話しかけた。
「私に了解を求めるな、でかい猫」
「な!? ふ、不服でござる!」
ゴロウとヨーゼの仲の悪さは今に始まったばかりではないが、ある種の上下関係ができあがってしまっているらしい。
「ここにいる者たちは全員合格だ! 次は基本的な集団戦法をお前に叩きこむ! 覚悟しろ!」
本来なら個別の戦闘技術も付け加えたいところだが、何にしても時間がない。
今の状況をユグドラシルの烏の聞き伝えによれば、討伐軍は戦闘と略奪を繰り返しながらこちらへ進軍しているらしい。
どうやら通る村、街全てをデニスの協力者として断罪し、欲望と暴虐の限りを尽くしているそうだ。
デニスは主に義勇兵たちへ長槍の扱いを覚えさせた。
槍は敵との距離を遠ざけやすく、恐怖を感じさせにくい。それに集団戦法の中では最も相性が良く、訓練も単純だ。
ただし足並みを揃えたりタイミングを合わせるのは並々ならぬ量の訓練が必要だ。
「突くように使うんじゃない! 全員で敵を叩くように扱うんだ!」
長槍は約2m。持つだけでも大変だが、それを上下に振って更にそれを全員同時に行う必要がある。
まるでその姿は人間の織機のように、ドッタンバッタンと汗を流し血豆を作り、義勇兵たちは訓練に専念した。
そして1週間後、義勇兵たちはまともに槍を扱える程度になっていた。
「……そろそろ討伐軍も近くか」
デニスが義勇兵たちの訓練を行いながら呟くと、予想通り伝令がやってきた。
「北東の平原より敵討伐軍を発見! その数、4000です!」
「くっ」
ユグドラシルの烏の予想を上回る敵の数の報告に、デニスは苦虫を噛むような苦しそうな顔をしたのであった。
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