第42話

 アドリアとの商談と同盟の話の後、デニスは早速貿易で得た物資を確認した。


 交易で得た品は主に武具、そして長期保存のきく干し肉や塩だ。


 ただしこの食料はあくまで人間用だ。ダンジョンのモンスター達にとっては魔素を含んだ慣れしたんだ食料の方が吸収効率が良い。


 なので塩などでダンジョン内の食料を加工し、日持ちするように手を加えた。


「てあっ! てえい! せいやっ!」


 デニスが決戦に備えて備蓄を確認していると、城門の外で掛け声が聞こえてきた。


 見てみると、綺麗に掃除された城門の外でカンタンとヨーゼが手合わせをしていた。


「その調子だ! 腰を据えて盾を中心に相手の隙を突くんだ。剣戟だけではなく体術も駆使しろ!」


 手合わせと言っても使っているのは実戦用の武器だ。使えるのは互いの力量が近づいた証、カンタンはヨーゼの修行で確実に力を付けているようだ。


「せええええいっ!」


 カンタンが渾身の一撃をぶつけた時、手に持った剣のベガルタが輝く。


 すると大剣で身を守っていたヨーゼを勢い良く弾き、その大剣の刃先は零れてしまった。


「えっ!?」


 カンタンが驚くのも無理はない。これは尋常ならない力、神器の片りんだったからだ。


「無意識に神器解放が使えるようになってきたようだな」


 デニスがカンタンとヨーゼに近づき、カンタンの違和感を説明した。


「神器解放ですか?」


「ああ、俺の城塞砕きのようにベガルタにも神器解放の技がある。それは、小怒破砕だ」


「小怒破砕、ですか」


「ベガルタの名前の元らしいから、名前負けは勘弁してくれ。しかしその技は連撃と相性がいい。相手に反撃する間もなく何度も繰り返せる。それが小怒破砕の特徴だ。それに並みの武器なら、そらあの通りだ」


 ヨーゼは刃こぼれしてしまった大剣を地面に刺すと、デニスに向かって要求してきた。


「大剣の代えはあるか?」


「相変わらず武器に愛着がないな。代えはあるにはあるが。お前も神器のひとつでも手に入れたらどうだ?」


「確かにそれも悪くない。だが私はデニスほど暇ではなくてな。神器収集などしてられない」


「別に俺だって暇だから収集してたわけじゃないんだがな……」


 デニスはゴブリンにできるだけ良い大剣を持ってこさせ、それをヨーゼに手渡した。


 ヨーゼは軽く大剣を振って遊ばせると、気に入ったように肩の鞘へと納めた。


「カンタンはもう十分に育った。後は軍功を立てるだけだ。私の任務のひとつは完了したからな」


 ヨーゼも律儀なものだ。わざわざ捕虜の頃の約束を守るとは、今更な気もしないではない。


「ヨーゼさん。毎日の修行ありがとうございました!」


「ああ、ただし修行は終わったが毎日の基礎鍛錬は忘れないようにしなさい。分かったな」


「え、あっはい」


 カンタンがちょっと青ざめているところを見ると、基礎鍛錬もなかなか厳しいらしい。これはヨーゼの性格と、かつて師匠としていたデニスの影響もあるのだろう。


「デニス様、ご報告に参りました」


 そうしてやりとりをしていると、気配なく背後に立っていたのはユグドラシルの烏に所属している女性だった。


「どうした? いい情報か?」


「悪い情報とも言えます。敵の討伐軍の総勢が把握できました」


 烏の言葉にカンタンもヨーゼも息をのんで耳をすました。


「敵は討伐軍残党、王国騎士、教会兵を中心に北で活躍する傭兵『アルテイオの爪』を含む大軍です」


「そうか。予想される総兵力は」


「……およそ3000かと」


 その数に、カンタンもヨーゼもどよめいた。


「お、多すぎですよ!」


「こちらの兵力はモンスターと村人を含めても100そこらだ。勝負にならないな」


 カンタンとヨーゼは暗い顔をしているものの、デニスは納得したように頷く程度だった。


「ま、妥当だな」


「!? デニスさんは予見してたんですか?」


「俺を誰だと思っている。かつて魔王討伐軍を指揮していた勇者だぞ。あの頃の最大兵力は5000、あくまでも一時的な最大兵力の話だが3000程度は保てる兵站だった。向こうもそれくらいの準備はするよ」


「なら対策も?」


「ない。これから準備する」


 デニスの頼もしいのか不安なのか分からない返答にカンタンは戸惑う。しかしデニスの方は構いやしないと言った表情だった。


「ないからこれから使える兵士を作る。それしかないだろう」


「使える兵士?」


 カンタンとヨーゼが首を傾げていると、デニスはさっさと洞窟の外へと向かって行った。


「今はもう俺たちだけじゃない。俺たちに与(くみ)するつもりなら、それ相応の働きをしてもらうまでだ」


 デニスを含む3人がダンジョンの外に出ると、森の向こう遠くを眺めるのだった。

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