第29話
「チェエエエエエエイッ!」
「うるさい!」
デニスがダンジョン前の村に帰ってくると、何故か村の外門でゴロウとヨーゼが手合わせを行っていた。
ゴロウは型にのっとった綺麗な戦いっぷりをし、ヨーゼは大剣を力だけで押しつぶすのではなく刃を手に取り細やかな動きをして対応していた。
2人ともカンタンの訓練とは違い、真剣を使っている。今はどちらとも傷はできていないが、下手をすれば命を取りかねない戦いだった。
「止めんか馬鹿ども!」
デニスの一喝により、ゴロウの首筋に刺しこまれようとした大剣とヨーゼの頭をかち割り損ねた刀が止まる。
「2人何をしているんだ! ヨーゼはカンタンの特訓。ゴロウはダンジョンの管理だろ。何を遊んでいるんだ!」
デニスの叱咤(しった)に、ゴロウとヨーゼはお互いを指さしながら不平を唱えた。
「拙者が助言をしても文句ばかり言うのでござる。この女騎士、全くなっとらんのでござる」
「さっきからこの猫が横から口を出してきてうるさいのだ。一体デニスは部下にどんな教育をしている? やかましくて耐えられない」
2人はそう言っていがみ合う。デニスは仕方なしに仲裁に入った。
「俺はカンタンの修行をヨーゼに全託したんだ。ゴロウは黙ってやってくれ」
「な……不服でござる!?」
「そもそもゴロウの技術とヨーゼの技は別系統なんだ。それを比べて矯正してもカンタンの動きがめちゃくちゃになる。もしもカンタンの訓練をしたいならヨーゼの後にしてくれ」
ゴロウはめそめそと泣き。ヨーゼは勝ち誇ったように胸を張った。
「何を自慢げにしているんだ? お前は捕虜だってことを忘れてるのか? こんなところまで『逃げて』来て、約束を反故(ほご)にして脱走でもするつもりか?」
「なっ!? 失礼な。私はあくまでも決闘を申し込まれて戦ったまでだ。カンタンの訓練を邪魔するわけにはいかず、仕方なくここで果し合いをしたのだ」
「へー。それで自主練習しているカンタンに何をさせているんだ」
「腰まで地面に埋めてモンスター10匹を相手にしている。今頃終わっているはずだ」
「……おー、恐ろし」
デニスは今頃カンタンがどうなっているか心配になりつつも、情報交換を優先した。
「なるほど。交易は今まで以上に流通できそうでござるな」
「しかしよく亜人族を抱き込めたものだ。『歴代最強の狡猾さ』の称号は伊達ではないな」
何故かデニスたちの話の輪に、ヨーゼも混じっていた。
「……おい、仮にも敵同士だったんだぞ。少しは遠慮しろ」
「私は貴様と違って正々堂々と情報を得るし、後ろめたい話などもってのほかだ。そして盗み聞きなど盗賊のやることだと思っているから、こうしてちゃんと姿を現しているのだ」
「スパイもどきの外交官みたいな図々しさだな。いいからさっさと戻ってカンタンの相手でもしていろ」
「断る!」
「断るな!」
デニスとヨーゼが喜劇みたいなやり取りをしていると、エメが落ち着かせようとした。
「このくらいの話は世間でも知られているわけですし、そこまで警戒しなくても良いじゃないですか」
「そうだ! この子はいい魔族だな。気に入った」
ヨーゼがエメの肩を無理やり抱きかかえているのを、デニスはぼそりと呟いて余計な話を吹き込んだ。
「……そいつは魔王の子だぞ」
「――殺す」
「だから極端すぎなんだよお前は!」
ヨーゼが肩に回した腕でそのままエメの首を絞め殺そうとするのを、デニスとゴロウの2人がかりで止めたのであった。
「――だから私は魔王の子とは言っても魔王候補ではないのです」
解放されたエメがちゃんと説明すると、狂犬のように暴れていたヨーゼは納得したようだった。
「分かった。許す」
「アタシは割と根に持ってますですけどね」
エメはデニスを盾にするようにヨーゼと話し、誤解? が解けたのに安心した。
「ごほんっ。じゃあ話の続きだ。ダンジョンと村の状況は」
「いたって順調でござる。中層の城壁はほぼ完成。村の壁も石造りで囲って拡大中でござる。ダンジョンの作物と普通の作物もそれぞれ育て始め、順調に成長中でござる。ただ――」
「ただ、どうした?」
「そろそろダンジョンの余剰魔素が枯渇しそうな気配があるのでござる」
デニスはゴロウの言葉にピンッと来なかった。
なので代わりにエメが説明をした。
「通常ダンジョンは略奪や冒険者と戦闘することで外界の魔素を取り入れるのです。それが交易という形で吐き出され続けたため、魔素が枯渇しそうなのです。それでもこの間の防衛戦のおかげで魔素は十分に蓄えられたと思いましたが、土親方の生成で思ったよりも減ったようですね」
「なるほど、外の物資や外の人間を活動させることでダンジョンの魔素が補充されるのか」
デニスはそう聞き、思いついたように指を鳴らした。
「よしっ。村人とモンスターで模擬戦をしよう」
「はっ?」
またしてもデニスの突飛な提案に、その場の全員は固まるのであった。
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