第133話 nature

ただ、如何に見てみたかったからと言って

人の居る個室を覗くのは、ちょっとよろしくないけれど

そういう心がけを、親から教わらないまま、青年になってしまった。

つまり、その親世代も善悪、ひとに迷惑を掛ける事が悪だと

教わるよりも


損より得だ、そういう価値観の中に育ってきたから


子供にそんな事を教えることもない。



人の寝ている個室のドアハンドルをがちゃがちゃ、と回せば

若し、女の人が寝ていれば気味が悪いし


泥棒に間違えられかねない。





そんなリスクを犯してまでもファーストクラスの個室を覗いて見たかった。



何故?




たまたま、鉄道と言う秩序的なものに

心の拠り所を感じた(つまり、不条理な親世代の気まぐれな横暴さに

厭世的になっている)。


それなので、遁走するように興味の対象を機械に求めた。




それは、親世代が悪いのか?



そうとも言えない。



単に言えば、生き物としての人間が


都市生活に合わなくなってきている、と言う事だ。





元々、人間はサルから進化したが

サルなら、生まれてすぐに歩く事もできる。



ところが、人間は脳が大きくなりすぎたので

早産してしまう。



だから。



目も開かない赤ん坊を、ほとんど母親ひとりで育てなくてはならない。



サルならば、雌同士のコミュニティで共同に育てるが


(今も、名残はあるが)。



人間同士に損得があると、そうもいかない。




その上、不条理な事に人間社会は20歳まで

子供を自立させない法律である。



子供にとっても束縛であり、親にとっても足枷である。





それゆえ、人間の家族は窮屈な存在になったので

それもストレスになる。



力関係で優位な親が、子供を束縛しようとする事も有り得る。



そんな時に、曽祖父や祖父、祖母がいるべきなのだ。


サル社会なら、まだ、隣の者がいて

子供は逃げるところがある。





そういう不条理さを嫌う心が、秩序的な鉄道、時刻に正確で

レールの上を走るものを好んだりもする。




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