第39話 恋と呪いは紙一重(9)
沙知の話によると、このアンクレットは沙知の母親の知り合いの占い師から手渡されたものだった。
美桜は沙知の説明をちゃんと聞く前に触れてしまったが、願いが成就するまでの間は、決して外すことも、自分以外の誰にも触れさせてはならないということや、占い師が関わっているというところはあの指輪と同じだ。
(でも、どうして……さっちんに? 月島くんとさっちんは、同じクラスなことくらいしか接点はないし……さっちんはお姉さんの時のように積極的に声をかけるような性格でもないし……)
伊織は学園の王子様で、女子にはみな平等に接しているのだから、沙知と伊織が接点を持つことなんて、確率としては低い。
「さっちん、その占い師って、どんな顔をしていたの?」
「顔はよくわからないわ……黒い狐のお面をつけていたから」
「黒い狐の面だと——!?」
いつの間にか居間に現れた美桜の祖父は、沙知の口からその言葉を聞いて驚いた。
「おじいさん、知っているんですか?」
「知っているも何も……それは蘆屋を名乗っている者だろう。いいか、沙知。お前は一般の家の子だから知らなくて当然だが……——その仮面のやつはを呪うことを生業としている呪術師だ。二度と関わってはいけない」
「の……呪い!?」
それまで壊れてしまったアンクレットを悲しそうに見つめていた沙知は、恐ろしくなって顔色が悪くなる。
「呪い……って、そんな! 私は、願いが叶うって言われたから……」
「一体何を願った?」
「……い、伊織様と結ばれますように——って。で、でも、本当にそうなるなんて信じていたわけじゃなくて……!」
「伊織? なんだ、あいつそんなにモテるのか?」
祖父は眉間にしわを寄せる。
「あんな軟弱者のどこがいいのか……最近の若者の好みはよくわからんが…………いいか、沙知。恋と呪いは紙一重だ」
「恋と呪いが?」
「そうだ。特に女の強すぎる想いは、一歩間違えば呪いの原動力となる。男を好きになるなとは言わないが、そんな占いなどには頼らずに自分の力で勝ち取れ。それができないのなら、きっぱりと諦めた方がいい————」
祖父が沙知に呪いの話をしている間、美桜は伊織のことが心配になった。
また蘆屋の呪具が関係しているのなら、伊織が呪われているかもしれない。
見えるようになって、少しは自分で回避できるようにはなっているかもしれないが、美桜の気づかないところでまた伊織に何か起きているのではと思った。
(あの糸の先に……一体何がついていたんだろう)
* * *
女子トイレでのことがあり、登校するのが怖くなっていた美桜だったが停学になった三人揃って家に謝罪に来た。
改めてその三人が誰だったのか把握した美桜は、彼女たちが伊織に生き霊を飛ばしていた本体だということに気がつく。
実は基本的に生き霊はすっぴんの状態の本体と同じ顔をしているのであるが、美桜に水をかけた同級生のスッピンを美桜は知らなかったのだ。
(全然気がつかなかった……メイクって怖い)
その翌日、沙知や他の女子生徒がわざわざ迎えに来てくれて、一緒に登校したものの、伊織に生き霊を飛ばしてきた生徒はまだ他にもたくさんいる。
また伊織のファンから何かされるのではないかと、不安に思いながら教室のドアを開けると何も変わらない、いつも通りの光景だった。
「美桜ちゃんおはよー!!」
「吉沢さん、おはよー!!」
「お、おはよう」
そればかりか、女子も男子もみんな普通に挨拶をして、普通に朝のホームルームが始まる。
授業が始まっても特に何も起こらず、移動教室の際、廊下ですれ違った上級生や他の伊織ファンたちからの視線も、トゲのあるものではなくなっていた。
一つの空席を除いて。
(……休み、なのかな?)
教室に伊織がいない。
無理やり席を代わってもらって、美桜の後ろになった伊織の席だけ空席だった。
見えることが怖いと、耐えきれずに美桜から離れなかった伊織。
(……なにも言ってこないってことは、呪いで眠れなくなる前に浄化できた————ってことだと思ってたんだけど)
あの日以来、一度も会っていないため、いつから伊織が来ていないのか、美桜は知らなかった。
もちろん、伊織がどうして教室にいないのかも……
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