第14話 呪われすぎの王子様(2)


「これを……見てくれ」


 車が走り出した途端、伊織は車内でいきなり制服を脱ぎ始める。


「ちょ……ちょっと!!」


 ネクタイを外し、ガバッとシャツを脱いで、美桜にほどよく筋肉のついた背中を向けてきた。


 肩甲骨のあたりに、赤紫色に変色した傷というか、痣いうか……なんと表現したらいいかわからない不思議なモノが浮き出ていた。

 伊織の肌が白いせいで、よりその異質なモノが目立つ。


「ここ数日、背中に違和感があって……寝ようにも夜になると痛みが増すんだ。 医者に見せても、どこにも異常がないといわれてしまった」

「こ、こんなに変なモノがあるのに?」

「やっぱり、何かあるんだな?」


 その赤紫色の不思議なモノは、どうやら伊織自身にも、医者にも見えてはいない。

 美桜にしか見えていないということは、やはり何かの呪いにまたかかっている可能性が高い。


「いったい、どういう状態になってるんだ? どうしたらいい?」


 恐る恐る美桜はその不思議なモノをよく見ようと、伊織の背中に顔を近づけた。


(気持ち悪い……なにこれ)


 赤紫に見えたそれは、近くで見ると小さなキノコだった。

 えのき茸ぐらいの傘の小さい赤紫色のキノコが、伊織の左右両方の肩甲骨あたりから生えている。


「かかか肩のあたりに、5センチくらいの傷があって、その中からキノコが生えてる————いっぱい」

「き、キノコ!?」


 美桜がそっと肩甲骨に触れると、その不思議なキノコはスッと消えて、真っ青だった伊織の顔がぱっと明るくなる。


「あ、痛くなくなった!! さすがだな!!」


 痛みがなくなり、伊織は上半身裸のまま、感動して美桜に抱きつこうとしたが、美桜は相変わらず眉間にシワを寄せて、顔をひくつかせている。


「ち、近づかないで!!」


「……ちっ。まだダメか……それで、あれだろう? これで終わりとかじゃないんだろう?」


 美桜に拒否されてショックを受けつつ、前回呪いについて学んだ伊織は察した。

 呪いを解くには、その原因を断たなければならない。

 かつて神の子と呼ばれていた美桜の持つ不思議な力で浄化しても、一時的なもので、原因を断たなければ、また呪いは襲ってくるのだ。


「そそそそう。これで解決じゃない……原因を、突き止めないと」


 残念なことに、肩甲骨のキノコは消えたのだが、伊織に憑いている紫っぽいもやもやは、まだ消えていないのだ。



「じゃぁ、今日の放課後、また俺の家にきてくれ。また俺の睡眠を妨害するこの呪いの原因を突き止めに————」




 * * *




 放課後、月島家に着くと、長すぎる廊下で偶然にもあの全身真っ赤な美人の姉とすれ違った。


「あら、この家に何の用?」


 今日も赤いロング丈のワンピースで、赤いハイヒール。

 手に持っている小さいクラッチバックは赤ではなく黒だったが、所々に赤い装飾が施されている。


(本当にこのお姉さん、赤色が好きなんだな……)


 そして、相変わらず高圧的な態度で、美桜を見下している。


「美桜様にお願いがあってこちらからお呼びしたのです。大事なお客様にそのような態度はお控えください」

「うるさいわね……もう私の執事じゃないんだから、気安く話しかけないでよ、東堂」


 美桜の代わりに答えた東堂に佳織は悪態をつくが、東堂は全く気にしていないようで、それどころか少し笑っているようにも見える。


「ところで、お嬢様、これからお出かけですか?」

「ええ、これから友人宅で集まりがあるのよ……って、お前には関係ないでしょ?」


 東堂が執事だったころの癖で、ついつい質問に答えてしまい、佳織は不機嫌そうな顔で去って行ってしまった。


「まったく、姉さんは……俺の婚約者が来たっていうのに!」


 伊織は姉の態度に少し腹を立てながら、さっさと自分の部屋に行こうと美桜を促した。

 だが、美桜はじっと、佳織の後ろ姿を見ている。


(変だ……昨日憑いていたもやが小さくなってる)


 佳織に憑いていた紫っぽいもやもやが明らかに小さくなっている。

 たった1日しか経っていないのに、一体どうなっているのかと、美桜は首をかしげた。


「おい、どうした? 早く来いよ」


 伊織に呼ばれて、振り返る美桜。


「う、うん……」


(——って、あれ?)



 伊織に憑いている紫っぽいもやもやが、少し大きくなっている……そんな気がした。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る