第10話 イケメン高校生と髪の伸びた日本人形(10)
「本当に……こんなもので効果があるのか?」
いくら優秀な執事の東堂でも、さすがに深夜ということもあり、美桜が必要だと言ったものを今すぐ揃えることはできなかった。
だがこのまま美桜が伊織から離れれば、早朝までにまたあの蛇が襲ってくる。
本当に、本当に嫌だけど、美桜はできるだけ伊織の顔を見ないようにすることでなんとか後ろから抱きしめられた状態で同じベッドで一夜を明かすしかなかった。
全然眠れなかった美桜とは違い、いつのまにかぐっすり寝た伊織。
あれだけ助けてくれと泣いてすがったくせに、いざ呪いの元凶を断つために必要なものが揃ったら、第一声がそれだ。
「し、信じないならいいです。私帰る!!」
「ちょっと! 坊ちゃん!! 失礼ですよ!! 早く謝ってください!!」
東堂は東堂で、一睡もせずに必要なものをかき集めに奔走していたのに、これでまた美桜の機嫌を損ねるなんて何事かと、苛立っている。
「わ、わかったよ……すまなかった」
(全く……誰のためにこんなことになってると思ってるのよ!!)
美桜は東堂が用意したものを確認する。
神社で買って来た清めの塩に、上質な紙と朱墨、筆、硯、そして長いロープと三角コーン4つに、マネキンを1体。
何が一番揃えるのに苦労したかというと、清めの塩だ。
ただの塩でもいいのではと思ったが、必ずちゃんとした神社で作られたものでなければダメだという美桜のこだわり。
美桜は半紙数枚にさらさらっと筆を走らせて、なんて書いてあるのか全く読めないが護符のようなものを作った。
十分に乾かしたあと、マネキンにその護符を貼り付ける。
「ああとは、髪の毛を数本と何かいつも持っているもの…………スマホを」
「か、髪の毛!? ……いってぇえええ!!」
東堂が伊織の髪の毛を数本抜き取り、美桜に渡す。
涙目になりながら、伊織はスマホを美桜に渡すと、美桜はスマホをマネキンの手に持たせ、髪の毛は護符の上に置いて何かブツブツと唱え始める。
すると吸い込まれるように髪の毛が護符の上から消えてなくなった。
「おおお! すごい……!! どうなってるんだ?」
「どどどうしてこんなことが私にできるのかは、自分でもわかりません。なんとなくわかるんです……」
生まれた時から、不思議な力がある美桜。
だが美桜自身も、なぜ自分にそんな力があるのかは知らないのだ。
「つつ次は、このコーンとロープで結界を作ります。今夜、呪いが発動する前にこの中に入ってください。そして、決して私がいいというまで中から出ないで……絶対に、声を出してはいけません」
「声を……?」
「あああのマネキンを身代わりにするので……声を出してしまったら、蛇に気づかれて終わり。死にます」
「わ、わかった……」
美桜は部屋のベッドから離れた場所に三角コーンを4つ並べて、護符を貼り付けるとロープを一周させて結界を作った。
そして、夜まで待って、いつも呪いが発動する午前2時前、伊織はその中に息を潜めて立つ。
そこで初めて、自分が一体何に絞め殺されそうになっていたのか、目にするのだった。
ベッドの上のマネキンに向かって、黒い蛇が床や壁を這い、向かってくる。
結界の中にいることで、見ることのできなかった呪いが伊織にも見えるようになったのだ。
黒い蛇はマネキンの胴体、足、腕、そして首をぎゅうぎゅうと締め付ける。
その光景の恐ろしさに、思わず声が出そうになった伊織は、必死に口を押さえて声を出さないように耐えた。
一方、美桜は呪いがどこから来ているのか探るため、蛇の通った跡を辿り、東堂と一緒に無駄に広い大豪邸の一室のドアを開ける。
「こここれです。ここから来てます」
物置のようなその部屋には、いろいろな箱や袋がぎゅうぎゅうと押し込められていた。
「ここは……プレゼントルームですが……どうしてここに?」
「プレゼントルーム……?」
「ええ、坊ちゃんをはじめとしまして、月島家のご家族はいろいろな方々からお誕生日ですとか何かお祝い事の度にたくさんのプレゼントをいただきますので、置ききれないものは全てこちらに収納してあるのです」
(……金持ちめ!!)
少しイラっとしながら、美桜は蛇が出て来ている場所を特定する。
それは、丁寧に包装されたまま、開けられずにしまわれていた木箱だ。
美桜がそっと木箱の箱を開けると、そこには————
「人形!!?」
ガラスケースに入った日本人形。
しかし、胴体は固定されているのか、立っているのだが、首がごろりとケースの中に転がっている。
まるで美桜の今の髪型のように、髪の伸びた子供の日本人形だった。
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