フォスフォロスの城壁

一刻ショウ

一部 光明

序章 闇と稲妻と伝承

序章 闇と稲妻と伝承

 今から四百年前。

 突如として現れた英雄、最古の加護持ちたるザフォラ・ケロスは、その詳細が失われた現在もなお多くの人々の信仰を集めている。

 すでに数百年の過去に死したザフォラが真実人間であったかは、現代に生きる人の身には知り得るすべのないことだ。しかし、長きにわたり闇蜥蜴やみとかげの脅威に晒されてきた非力な人類にとって、ザフォラが神にも等しい救世主であったことは残された資料などからも明らかであろう。

 ただひたすらに築き上げた壁の内側で息を殺すしかなかった人類は、英雄ザフォラとそののちに生まれた加護持ちたちによって、その孤立から解き放たれた。彼ら〝加護持ち〟は我々にとって神力の代行者に他ならない。

 その証明として、ザフォラが彼の神力のあたぬし、三柱の神々の一柱である〈雷霆らいてい従えし空神フェレトリウス〉にあやかった異名〈雷鳴とどろかす天の使者〉〈稲光放つザフォラ〉で呼ばれていたことは、周知の事実である。

 強力な加護を与えられた加護持ちに三神にあやかった異名をつける習慣も、英雄ザフォラに由来する。

 他にザフォラの功績として語らずにおけないものといえば、なんといっても〈絶えぬ灯火の家ヒュペルファロス神殿〉の設立であろう。

 この神殿は唯一闇蜥蜴に対抗することのできる存在たる加護持ちを集め、人々の安寧を守ることを目的として建てられ……。


『イポミア年代記』第二巻一章『英雄ザフォラの功績について』より抜粋

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