クロネコギター4

山崎 モケラ

クロネコギター4



あたしはいわゆる登校拒否児だ。

本当なら高校3年生になってるはずの高校2年生だ。


おまけに引きこもりというものをしている。

家からもう半年出ていない。


家ではゲームやギターを弾いている。

それ以外はあまり何もしていない。

勉強も、しなくなった。



友達からのLINEも最近は来なくなった。

LINEがきても、あたしが無視していたからだろう。



でも、構わない。



学校に戻る気はないからだ。

じゃ、どこに行くの?と、聞かれると困るのだが。

今の高校に戻る気は無いのだけは確かだ。



なんで、学校に行かなくなったかというと。

あたしにもわからない。



学校には仲の良い友達もいた。

成績は普通だと思う。


だけど。行けなくなった。



行けなくなった理由が有れば、あたしが知りたいと思った。




以前は週に1回、登校拒否の精神科の先生のところに行った。

でも、今、それすら行けなくなった。



その病院は母が代わりに行っている。



ゲームもギターも飽きた時は、外をぼんやり見ていた。



そんな時に気がついた。


あたしの部屋は3階なのに、丸っこい大人のクロネコがベランダで日向ぼっこしていた。



あたしはネコが好きなので、撫でたくてたまらなくなり、逃げないようにソッと手を伸ばして背中を撫でた。



あまりにかわいいと思い、抱き上げて部屋の中に入れた。



母に飼っていいか?と、相談に行くと、母はびっくりした顔で『いいけど。世話はあなたがしなさい』と、ハッキリ言った。



あたしはこのネコに、ブラッくんと名付けせっせと世話をした。



世話といっても、トイレくらいだったけど。




ある日、気がつくとブラッくんの餌がカラになっていた。

どうしよう。

母は私の精神科の病院に行ってて帰りは遅い。

ブラッくんはお腹空かせてるようだった。



あたしは、念のためにと置かれていた千円を握りしめ、餌を買いに行くことにした。



外に出るのはすごく怖かった。

だって、半年も出てないんだもん。



着替えて、髪をとかして、鏡にうつった自分を見て、変なところはないみたいと勇気づけて、玄関のドアをグッと握りしめた。




そして、外に向かって目をつぶってドアを開けた。





何分も立った気がした。

一瞬のことだったけど。



3歩外に出てみた。心臓がバクバクする。




大丈夫、あたしは倒れてもなければ、化け物に変身してもいなかった。そう、あたしはいつも通りのあたしだった。




化け物に変身してないことを確認し、あたしは、近所のドラッグストアに向かった。


ネコのご飯は売っていた。

まるで、50年前からそうしているかのように。

無事に買って、のんびり帰った。




帰り道は歌いたいような気分で帰った。

そうだ、ギターを弾きながら歌ってみよう。

そんなコトをボンヤリ思った。




家に帰るとブラッくんが餌を待ってウロウロしていた。





さっそくあげると、嬉しそうに食べていた。



そのタイミングで急に友人からLINEが来た。




『バンドをやろうと思うんだけど、ギターがいないんだ。

一緒にやらないか?』



あたしは、なんだか急にワクワクしてその誘いにオッケーを出した。



打ち合わせは明日学校でやろうと、言われた。




学校にその要件だけのために行ってもいいと思った。

明日は学校に行ってみよう。




バンドの打ち合わせは考えただけでワクワクした。








気がつくと、ブラッくんがいない。

どこにも。

まるで空気になって消えてしまったかのようだった。






部屋中探し回っていた時に母が帰ってきた。

明日、学校に行って、バンドの打ち合わせをするんだと言った。



母は嬉しそうにちょっと涙をおさえながら、今夜は『美味しい物作らなくちゃ!』と、背中を向けた。

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クロネコギター4 山崎 モケラ @mokera

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