とある面接

はんぺん

とある面接

 青年は路頭に迷っていた。彼は今就活中なのだが、どうも仕事に上手く就けない。昼から何の意図も無く街中を徘徊する彼の姿は、なにより彼の切なさを物語っていた。そうして人通りの多い、開けた通りに向かうと、いつもは見ない張り紙が貼ってあった。

『仕事に上手く就けないそこの君へ!是非この場所に来てください!いつでもお待ちしております!』

胡散臭い、よくある怪しい張り紙だった。それでも青年はしばらくそこに立ち止まっていた。青年はすぐさま戻り、埃被ったスーツを着ると、指定された場所に向かった。そこは、張り紙が貼られてあった場所とは遠くかけ離れている、汚い路地裏だった。人一人入るのがやっとで、通行人も気付かないほどの道を、彼は迷い無く進んでいた。それほど彼は追い込まれていたのだ。そして、彼は扉を開いた。


 そこには清潔そうな白い空間が広がっていた。そこに長机と、そこに座る三人の面接官。一脚の椅子が対になって置かれていた。青年は戸惑い、そのまま勢いで椅子に座ってしまった。さまざまな社交辞令をすっ飛ばし、青年は面接官に自分の履歴を話した。履歴書も、当然ある訳無いのだ。面接官は一人一回の質問をし、合計三回の質問を終えたあと、その場で採用と伝えた。青年は意味が分からず、しばらく困惑していたが、採用と聞き、これからどうすれば良いかを面接官に尋ねた。

「簡単な事だ。君には、今からここに座る」

面接官の答えは説明が無く、理解し難かった。意味も分からず、言われるままに座ると、一番端の面接官はおもむろに立ち上がり、こう言った。

「…これは、ただ面接をするだけの仕事。それだけだ。新しく採用者が現れたら、一番長くその場にいた面接官は帰ることが出来る。聞いたのはそれぐらいだ」

元面接官は、ポケットから金を取りだし、わざとらしく見せびらかす。青年は未だによく分かってなかった。

「いいか?お前はあと三人のお前みたいな就活失敗生を釣るんだ。逃げられると思うな、前を見てみろ」

監視カメラが青年の姿をしっかりと捉えていた。

「じゃあな。俺はこの金で自由を楽しむとするよ。…三年ぶりの自由さ」

無情に去っていく面接官を、彼はただ見ることしか出来なかった。

「い…嫌だ」

彼が精一杯に絞り出した唯一の言葉だった。それが聞こえているのか、いないのか分からないが、面接官たちはこう言った。

「ようこそ、私達の職場へ」





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とある面接 はんぺん @nerimono_2

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