第24話 振り返り

「優勝おめでとう、みん」


 声に合わせて隣のミサキがぱちぱちと拍手をしてくれる。

 派手さがまったくない。やはり低予算感は拭えなかった。


「今後の予定は?」

「みんの願いを聞いて、現実世界に戻す事になるよ」


「そっか……」


 もうか、と思った。

 もう少しこの世界に浸りたいと思ったが、仕方ない。


「その前に」

 と中心で浮くミサキが言う。


「少しお喋りでもしましょうよ」

「わたしはみんに興味がある」

「上から見ていて、ね」


「面白い動きと策だったから」

「そういう話も聞きたいな」


 今まで一緒に行動していたミサキではない。

 だが、ミサキにそう言われたら、断れるはずがなかった。


「聞きたい事ってのは?」

「聞きたい事じゃなくて、お喋りをしようってこと」


「変わらないじゃないか。ようはぼくの口から言ってほしい事があるんだろう?」


 ミサキは返さず笑みを作る。みんは先を促した。


「大きく分けて三点」


 ミサキは三本、指を立てる。


「パーツの分離、パーツの拡散、自分を狙うよう設定した兵器」


「この策は今までのゲームの中ではなかった手だったよ。

 最初から最後まで、全部が計画通りだったの?」


 上から見ている限り、みんの手中のような気がした、とミサキは言う。


「そんなわけあるか」

「あれは効果が出ればいいな、と言った程度のもの」

「期待なんてなかった」

「ああやって策をばらまいておけば、どこかで咄嗟に使えるからね」


 なるほどね、とミサキは頷く。


「それが上手くはまるところがみんの怖さだよね」


「説明してほしそうな顔をするくらいなら言えばいいのに」


 心を見透かされたミサキは、むー、と唸る。


「わたしに心を許してくれたくせに冷たいな……」

「ぼくはぼくと共にいたミサキに心を許したんだ。お前じゃない」


「このわたしもあのわたしも同じなんだけどなー。

 姿形、記憶人格一緒でも、やっぱり二人も存在しちゃうと別人感が出ちゃうのかな?」


「続けるよ」


 さらっと流された事にミサキはむかっとする。

 が、説明欲しさに言い返す事はしない。


「そうは言っても、説明ね……」


「パーツを破損させる事で、全部を回収した時の勝利条件を歪ませたのは狙った事?」


「いいや」


 みんは即答する。


「ダメならダメで構わなかった。ぼくだけが位置を知っていれば、少なくとも揃わされる事はないと思ったからやった事だよ」


「その時にたまたまレーダーの事に気が付いたんだ」


「パーツを破損させれば、分かれたそれぞれのパーツが、レーダーに映る」


「結局、ぼくが持っているパーツの破損した半分は、レーダーに映ってしまっているし、意味はないと思ったんだ」


「だから、持っているパーツを小さめに削った」


「風に乗って飛んでいくような感じでね」


「薄皮、よりはもう少しあるか」


 みんがパーツを削っているところを思い出し、ミサキは青い顔をする。


「……あの光景を思い出しちゃった」

「ま、あまり良い光景じゃなかったからね。嫌なら見なければ良かったのに」


「変なことしてたら止めなくちゃいけないんだから、そりゃ見るよ!」

「こういうテンポはミサキそのものだね」

「だからわたしはわたしなんだけど!?」


 上から怒られるというのも滅多にない体験だ。

 ミサキに限れば、こういうシチュエーションは多かったが。


「削った小さなパーツでもレーダーに映るなら、

 風に乗せて長距離を飛ばせば、いい感じに分散されるでしょ」


「他のプレイヤーがタイミング良く、

 分散の時にレーダーを見ないでいてくれれば、怪しまれる事もない」


「自分が持つパーツ以外はレーダーに映っている分だな、くらいにしか思わないだろうってね」


 もしも四つ以上を持っていたら、怪しまれてしまうが。

 怪しまれたところで、隠す事が目的ではない。


「ぼくとしては、だからどっちでもいいんだよ」


 成功だろうが失敗だろうが、期待していないのだからどっちでも構わない。

 当たれば得、くらいなものだ。


「じゃあ、自分を狙うように設定した兵器を作らせたのは、なんで?」


「だって、あれくらいしないとアイテムと交換で要望なんて聞いてくれないでしょ?」


 一回目のミーティング。

 プレイヤーの初顔合わせと同時、みんはミサキと一つの取引きをしていた。


 みんが見つけたアイテムと引き換えに、要望を叶えてほしいと言うもの。

 本来ならば、アイテムと引き換えできるのは同じアイテムだけだ。


 アイテムをミサキに渡し、ランダムで別のアイテムをみんに渡す。

 使いにくいアイテムに当たった場合の救済措置だ。


 ランダムなので、それ以上の効果が必ず出るとは限らないが、やらないよりはマシだろう。


 使い道がない使えないアイテムよりは、

 使い道がかろうじてある使えないアイテムの方がいい。


 運が良ければ、効果の良いアイテムを入手する事も可能だが。

 みんはそうはしなかった。


 要望とは本来、パーツと引き換えに承諾されるものだ。


 パーツを手放す事で、有利に戦えるように状況を組み替える。


 渡したパーツは箱庭へ再び放たれてしまうが、

 それをしてでも、有利な状況にする効果は大きい。


 長期的な有利を取り、パーツは後々に回収し直せばいい。


 手放す事で努力を無駄にする感じがするが、

 最終的な勝利のためには必要な犠牲、とも取れる。


 みんはこのルールを無理やり変えた。

 アイテムと引き換えに、要望を叶えた。


 本来ならば不可能であるが。


 自分を不利な状況にするための取引きならば、ずるでもない。


 ミサキの方にも拒否する選択肢もあったのだろうが、恐らくはミサキが嫌がったのだろう。


 そんな行動をしてどうするのか、興味があったのだろう。


(そんな顔してたしね、あの時)


 みんとしては目的があったわけじゃない。


 マイナスに寄った要望は可能なのかと知りたかったという、こちらも興味の方が強い。


「みんを観測したら狙い撃つ。

 みんが操作しようとしたら大爆発を起こす……だったよね。

 よくもまあ、上手いこと、使ったもんだね」


 無々との戦い。彼が乗っていた兵器はみんが要望によって出現させたものだ。


 要望通りに、兵器はみんを観測したらどんな事よりも優先して狙い撃ち、

 みんにコックピットを触れられたら、大爆発を起こした。


 みんが兵器を使って有利に戦わないようにするための枷だったが。

 それを利用し、無々を倒した。


 あれが狙っていない機転の結果なら、戦闘センスがずば抜けていると取ってもいいのだが。


「爆発の時間差は頭に入ってない。相討ち覚悟だった、とは言っておくよ」

「あそこで巻き込まれて死ぬ事も考えていた?」


「そっちの方が可能性としてあると考えていた。

 それでも一応、巻き込まれても軽傷で済むような体勢で避けたけどね」


「なんか怖くなってきた……策がはまり過ぎてて、気持ち悪い」


 策士なんて評価をされる事が多いみんだが、全部が偶然だ。

 数多く仕掛けた罠の一部分が当たっているだけで。


 成功率で言えば低い。


 良いところだけを見て良い奴だなんて思わないでほしい。


 評価ほど、自分は世渡り上手な人間じゃない。


「さり気なく乱橋を刺した鋭利な鉄の棒は、兵器の残骸から取ってるしね」

「ああ、あれは本当に偶然。あれがなければ、首絞めでもしてたかな」


「どっちに転んでも手は打つって、ね。抜け目ないなあ」


 ミサキは素直に感心した。


「これで聞きたい事は全部?」

「うん。確認はお終いだよ」


 興味を終えたミサキは満足そうな顔だ。

 そこに隙間なく、みんが言葉を差し込む。


「じゃあ次はぼくの番」

「ミサキについて、聞いてもいいかな?」


 わたしについて? とミサキが首を傾げる。



「そもそもで、?」

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