第17話 砂上決戦

 ――中央・砂漠エリア――


 乱橋と共にいるミサキの言う通り、強者の戦いは長引かない。


「あいつにまんまとはめられたなあ。

 まあ、願ったり叶ったりではあるんだが。

 ……漁夫の利を狙われてるのがばればれだし」


「あいつ?」

「馬鹿っぽい顔の奴」


「ああ、あいつか」


 無々も頷く。

 馬鹿っぽいを象徴するのが乱橋ではなく、ただの消去法なのだが。

 イメージとして、そう根付いてしまっているのは否めない。


「仕組まれた戦いではあるが、お前は気にしねえだろ?」

「弱え奴の小細工なんかどうでもいい。それでオレがやられれば、評価はするがな」


 大した影響はない。小細工に意味はない。


「てめえと引き合わせてくれたことには感謝だな」

「同感だねえ」


「早速、ぶっ飛ばせる」

「口より、手ぇ、動かせよ」


 見上げながら見下す愛舞に、無々の額からぶちっと音が鳴る。


 ミサキの寝ぼけた悪戯イタズラによって墜落したあの衝撃の後でも、問題なく起動する。

 銃口の全てが愛舞に向いた。


「あ?」

 無々の声。


「小手先に頼るなよ。遅ぇ」


 常備されている装備が一気に二つも剥がされた。

 緊急停止。無々は距離を取るために、操作に集中する。


 人よりも大きな銃を抱えながら、愛舞は立つ。

 笑みを作るのは彼女だけではなかった。


「ハッ」

 無々もまた、口を歪める。


(常識破りだな)


(こいつぁ、初めてだ)


 予想以上の相手の実力に驚きはない。

 感心と期待しかない。


 正直、勝敗の結果に、さっきまでの自信はない。

 だからこそ、弱肉強食らしくて、面白い。


「決まった結果ってのはつまらねえもんだ」

「どうせオレが勝っちまう」

「だからこそ、遊んじまうオレの悪い癖があるんだが」

「――お前には、真剣に挑めそうだ」


 愛舞は共感する。


(どうやってもあたしが勝っちまう)

(勝つだけならまだマシだ)

(問題は、相手を壊しちまう事だ)

(だが、あいつは違う。今までの奴とは違う)


「お前は、壊れねえよな!」


 声と同時に足を振り上げる。

 つま先にあった分の砂を持ち上げただけだったが、予想以上に多くの量が持ち上がる。


 砂のカーテンが視界を阻む。

 愛舞はカーテンを回り込むように避けて、爆走した。


 その間に、砂のカーテンは一瞬で吹き飛ばされる。

 数百の銃弾が砂にめり込んでいくのを音で認識。


 兵器の側面へ、愛舞は辿り着く。


「まだだよな!」


 側面にも装備されている武器を確認。

 先端を掴み、力づくでもぎ取る。


 嫌な音が兵器の関節部分から鳴る。


「っ!?」


 愛舞の側面が叩かれた。

 もぎ取った武器を持ったまま、吹き飛ばされる。

 詰めた距離、そのまま離される。


「なんつー機動力だよ」

「どうやら、伝達速度は良いらしいな」


 操縦士が乱橋だったなら、あんな動きはできない。

 発見してすぐなのにこうも操れる無々が異常だった。


(銃なんて、あんな簡単に連射できるもんなのか?)


(スイッチ一つで発射できるとかじゃねえ。

 普通の奴は、そう簡単に、スイッチなんて押せねえ)


(撃つまでの精神的な障害が、あいつにはねえ!)



「疑問がありそうだな?」


「なに?」

 図星を突かれた愛舞は冷静を装う。

 それが逆にヒントを残した。


「ハッ。オレは兵器に慣れてる。扱うのに戸惑う事はねえ」

「聞いてねえよ」

「そのわりにはスッキリした顔をしてるが?」


 馬鹿にした笑みをする無々にイラッとする。

 持つ武器を思い切り放り投げた。


 しかし、無々は素早い反応力でそれを避ける。


「無駄だっつうの」

「この位置は無駄なのか?」


 愛舞は無々の頭上まで来ていた。


「ちっ、銃の後ろに隠れてやがったか」

「答えを出すまでは早いな。警戒はしてなかったみてえだが」


 愛舞は、つま先を勢い良く突き出す。

 無々の腕と衝突するが、勢いが殺された。彼の力で押し戻される。


(吸収された感覚……)

(あの服か……)


「おいおい、お前は地球防衛軍にでも入ってんのかよ?」

「いや? それくらいの耐久性の服を持つのは、普通じゃねえか」



(――とは言え)

(ほぼ貫通してるだろ、これ)


 無々は表情には出さずに冷や汗のみ流す。

 衝撃を吸収した腕の部分の服は、破れている。


 中にまで衝撃は侵入していた。

 無々の腕は麻痺して、いつも通りには動かない。


(操作はできるが、肉弾戦になったら、終わりだな)

(その前に決着をつけるしかねえ)


 無々は意を決する。今まで一度も使っていない銃口を動かす。

 静かに、悟られないように。


「ばれてるぞ?」


 愛舞は言い当てる。だが、


「腕、もう使いものにならねえだろ?」

「…………だから?」


「攻撃力半減だな」


「そうか?」


 無々はいつも以上に口を歪め。


 愛舞も気づいた。

 装備されている一つの銃口が、青白く染まっていく。


「あれは、やべえ!」

「攻撃力、跳ね上がってるぞ?」


 スイッチを押したと同時に、青白い一線が放射される。

 砂を削り空気を吹き飛ばし景色を歪めた。


 横に飛び込み、なんとか躱した愛舞は嫌な汗を流す。

 いくら愛舞でも、今のをまともに喰らえば、部位が消し飛ぶ。


(くそ、予兆がなさ過ぎる!)

(あればかりを警戒していると、他が来る!)


「早期決着しかねえよな、こりゃあ」


 愛舞は覚悟を決めた。

 どれだけ無茶でも、どれだけ危険でも、ここは動く。


 長引けば長引くだけ、あの光線を受ける頻度は高くなる。

 一発でも受ければ終わりだ。


 いくらミサキの言うルール上、怪我は現実世界に影響しないとは言え。

 ここで喰らい、味わいたい痛みではない。


 痛みなんて、ないのかもしれないが。


「顔が変わったな。なにか、仕掛けてくる気か?」

「鋭い子供は嫌われるぜ?」

「好かれる性格はしてねえよ」


 同時。

 愛舞は駆け出し、無々は光線をチャージする。


 溜まるまで数十秒と言ったところか。短過ぎる。


 だが、溜まったところで照準が合わなければ撃てはしない。

 相手の目を潰すか、逸らすか。


 現実的なのは、逸らす。こちらから、逸らさせる。


(ここが砂漠で助かった)

(目隠しに持ってこいのもんが、大量にある)


 愛舞はさっきと同じ手を、さらに大規模で起こす。


「らああああッ!」

 思い切り、地を殴る。


 爆音と共に砂が噴き出すように、舞い上がる。

 それは滝のようだった。


 愛舞の姿など、人の目から消すには充分な程だ。

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