第15話 喰らい合う

 愛舞と無々の戦闘場所から遠方。

 無々が兵器に乗り、飛んでいた場所、同座標。


 そこの真下の地面が、ぼふっ、と落下を示す。


 起き上がったのは乱橋だ。


「う、上手くいったぁ~っ!」


 はあ、はあ、と手を心臓に当てて、安堵の息を吐く。


 あのまま戦闘が続いていれば、死なないまでも、戦闘不能にはなっていた。

 そうなっていたら、アイテムを上手く使えるか分かったもんじゃない。


「あの時のアイテムがこんな形で使えるとはねー」


 ミサキが乱橋の真上で言う。

 体勢としては、プールにぷかぷかと浮かぶような感じで、真下の乱橋と向き合っている。


 乱橋が使ったアイテムは自分と相手の位置を入れ替えるアイテム。

 条件は、互いが見えていないと発動はできない。


「互いが『見えている』ってのは厳しい条件かとも思ったが、そうでもねえんだよな。

『見ている』だったら厳しかったんだが、

『見えている』なら、景色の中に映っちまえば、それで条件は満たされる」


 それでも賭けだったんだけど、と乱橋は苦笑いをした。


「まあ、乱橋にしては良く頑張ったじゃん」

「なんでそんな上から目線なんだよお前は……」


 ったく、と呆れながらも、純粋な笑みを隠せなかった。

 ミサキはそれを逃さなかった。


「撫で撫ででもして欲しいのー? 頑張ったご褒美に?」

「ああ、欲しいね」

 その言葉にミサキが驚く。


 そんな返しは想定していなかった、と言わんばかりに戸惑っていた。

 顔を真っ赤にあたふたしている。


「冗談だよ。ここではな」


 乱橋はミサキを見つめる。


「俺はお前を助けるぜ、ミサキ。お前をこの監獄から出してやる」

「乱橋……?」


「これのご褒美は、現実世界でもらうとするよ」


 さあって、あとは残りのパーツを奪うかねー、と伸びをする。


 ミサキはなにかを言いたそうに、しかし言葉が出なかった。


 言えば、乱橋はどうにかしようとするだろう。

 諦めずに、どんな手を使っても。

 そう促したのはミサキだ。ミサキは自分で自分の首を絞めていた。


「共食いして倒れててくれ。もう一人は、俺だけでやってやる」


 誰かのために強くなる。

 乱橋には必要な成長だった。


 ミサキはくすっ、と笑って。


「行くよー、乱橋ー。強者の戦いって、長引かないんだからさー」


 いつも通りに乱橋をおちょくるように言う。



 ――数十分前・都会エリア上空――


「くそッ! やっぱ戻ってきたらここから始まるのか……ッ!」


 無々はミーティングから戻ってすぐに目に前に見えたハンドルを握った。

 咄嗟に傾ける。すれすれのところで高層ビルを避けた。


「そりゃあねー。ミーティングはポーズボタンみたいなものだし」


「ちったぁ、気を利かせてくれても良かったんだがな。丁寧に兵器の上に乗せて再開じゃなくて、目の前に置いといてくれれば、オレも選択ができたんだがな」


 乗るか、乗らないかの選択。


 自業自得だが、暴走している兵器に進んで乗ろうとは思わない。


 たとえどれだけの力を持っていようが。


 それに、生身の方が小回りが利くという利点もある。


「無々! 前前!」


「そういや、聞きそびれたな。

 おい、あの女の居場所とかって分かんねえのか?」


 焦るミサキとは逆に、無々は冷静だった。

 迫るビルの側面を沿うように真上へ上がる。

 最上階でサマーソルトし、また真下へ――。


 段々と操作に慣れてきた。

 しかし移動範囲は決まっている。

 同じところをぐるぐるとしていなければ、見えない壁に阻まれる。


「そ、そんな事はばらせないよ!」


「だよなあ。つまり、知ってるっちゃあ、知ってるってわけか。さて、どうするか……。

 あの女も挑発からして、オレを真っ先に探しているはずだろうし。待ってるのも癪だな」


 実際、愛舞はミーティングから戻ってきて一歩も動いていない。

 ミサキのわがままに付き合って、ひと眠りを再開していたのだ。


 無々がもしも待つ選択を取っていたら、二人はほぼ出会う可能性を失くしている。


 二人が出会い、戦うのは、無々の凶暴性が生んだ必然だった。


 たとえ乱橋の介入がなくとも、争いはなくならない。


「じゃあミサキ、あの女の出発地点はどこだ?」

「え、出発地点?」

「ああ、現在の居場所じゃねえ。それなら教えてくれるだろ?」


 ミサキはうーん、と考えた。

 ルールぎりぎりの質問。

 問い合わせるかどうか悩んで、最終的には独断で答えを出す。


「それならいっか。東方の廃墟エリアだよ」


「近くのエリアも教えろ」


 乱暴な言い方だったが、ミサキは素直に答える。


 質問しながらも無々は安定した操作をしていた。車道の上を飛び、順路に従っている。


「北方に行けば山岳エリアと森林エリア。

 南方に行けば平原エリア。西方に行けば砂漠エリアが大きく占めてる」


「そうか……となると、砂漠エリアか」

「え、どうして分かったの!?」


「その反応から確信を得た。砂漠エリアにいるんだな?」


 うぐっ、とミサキは声に出さず動揺する。


 カマをかけられた。ミサキ同士の知識共有のせいで失態が全てのミサキに伝わった。

 脳内に流れ込んでくる小言が胸に突き刺さる。


「ん、やっと時間か」


 無々は出現したサイコロをすぐに振る。


 五。いつもと変わらない出目は安定感を示す。


「運が良いね……。でも六じゃないところが惜しい感じ」

「いいんだよ。偶然の六より必然の五や四の方が使いやすい」


 無々の移動距離が決定する。

 砂漠エリア寄りに走っていたため、目的地はすぐ傍だった。


 ぐんっ、と体勢が崩れたミサキは、咄嗟に無々にしがみついた。

 飛行する兵器は高層ビルを飛び越え、空中で砂漠エリアに侵入。


「うわあ!」

 

 夜の町から出た途端に、刺激的な光が目に入る。

 なにもない景色だが、明るいだけで感動が呼び起こされた。

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