4.5の後のIF的な

@rairahura

残された手記

その滅びはあまりに唐突に訪れた

少なくとも多くの人にとっては唐突だった

きっかけはやはりと言うべきか人であった

ガレマール帝国の者が使用したなにがしかの兵器だったそうだ

それを語ったところで今さらどうなるものでもないのだが

ともあれ第八霊災と称されるその滅びは急速に世界を覆っていった


多くが怯え逃げ惑った

それまでに築いた富や権力など何の役にも立ちはしない

逃げようが隠れようが抵抗しようがたいして違いはなかった

誰に対しても死の毒は無慈悲にそして平等に降り注いだのだ

こんな世界になってやっと身分が意味を成さなくなるとは何とも皮肉なことだ

笑い話にもなりはしない


絶望が蔓延する中最初に言い出したのは誰だったか

「英雄は死んだ」

確信を持って語られた言葉ではない


始めは誰もが信じなかった

そんなはずはないと

彼の人は少しの間どこかに行っているだけ

すぐに戻ってきて我々を救ってくれる

それほどまでに彼の人は人々の支えになっていた

彼の人自身がどう思っていたかはここで語っても仕方のないことだ


彼の人がいれば必ず何かをしてくれるだろうと

霊災であろうと世界への脅威は退けられるだろうと

人は信じていた

だが彼の人が霊災の中心となった地にいたということは多くの人が知っていた

死の満ちる彼の地に

そしてそれ以降彼の人が現れたという話が語られることはなかった

語られたとしてもそう思わなければ心を保てない弱き者が騙る偽の言葉であった

辛うじて生きながらえて待てども彼の人は現れず

人々の希望は緩やかに手折られていった


そして結果としてそれは噂ではなかった

彼の人は戻らなかった

未来への希望の種は実を結ばず

異世界からの救いの手は差し伸べられなかった


それは

あるいは霊災そのものよりも人を絶望に叩き落としたのかもしれない

英雄という抑止力を失った世界は無気力と暴力で満ちていった


そんな状況だった

彼の人に会ったことがある者

いや彼の人の偉業を知る者であれば誰もが思っただろう

「英雄がいてくれれば」と

至極当然の願いと言えよう

小さな願いだった

それは本来であれば何の形にもならない

時の流れに溶けていくはずの願いだった

これに危機感を覚える者などいるはずもなかった


その願いの始まりがどこだったのかはわからない

彼の人はありとあらゆるところを駆けて

沢山のそう本当に沢山の人の心の中に残ったのだから

おそらく「どこで」というものではなかったのだろう


知るべきものが異常を異常として認識したのは手遅れになってからだった

彼らの願いは当たり前の

そうまるで眠る前に「明日がよい日でありますように」と祈るのと同じような

他愛もないものであって

(まあ明日がよい日であることなどもはや有り得ないのだが)

それで何かが起こるなど本来であればあり得ないはずだったのだから

だがその小さな願いはただの願いのうちには留まらなかった

いつしか彼の人の再来を

世界の救済を

多くの人が祈るようになっていた

そしてそれは人には限られなかった

彼の人が親交を深めたと聞く蛮族ですら彼の人の再来を祈った

シルフやらナマズオやら

アマルジャやサハギンですら彼の人との再会を願ったと聞く

恐らく彼の人と縁を結んだ者は多かれ少なかれ皆願っただろう

喪った者を望むことはたとえ竜であろうと抗えるものではない


小さな願いだった

しかし切なる願いだった

そしてその数はあまりにも多かった


彼の人の再来を

そして彼の人による世界の救済を

救いの手を乞う数多の祈りは一つとなった


そうまるで神に祈るときのように


そして彼らはその祈りと共にクリスタルを掲げた

彼の人が自らの光のクリスタルを掲げていたように

彼の人を模すように

彼の人を偲ぶように


彼らが持っていたクリスタルはたいして大きなものではなかった

それぞれが普段生活するために使うような彼らの願いと同様ほんの小さなものだ

少しの火花を起こしたり少しの水を出したり

一つや二つ百や二百集まったとてその程度のものだった

決して彼らはそのクリスタルが何かになるなど思っていなかったのだろう


その仕組みを知らない者の方が多かったはずだ

祈りと同様に示し合わせたものではなかった

誰かが初めて誰かが真似てそれが広がっていっただけだった

ほんの少しの儀式めいた行動に意味を持たせようとする意図などあるはずもなかった

ただ彼の人を思っていただけだった


しかし祈る者はあまりにも多く

その願いは同じ方向を向いていた

そして

最悪というべきか

彼らの儀式には意味が生まれてしまった


世界に満ちた幾千幾万の祈りは一つの渦を成し

小さなしかし莫大な数のクリスタルの力はその流れに従った

数多の祈りと膨大なエーテルは一所に集った

それが何を起こすか

最後の最後に気づいた者もいた

しかしすでに手遅れだった


かくして英雄は舞い戻った

戻ったのではない

あれは英雄その人ではない

死者は決して戻らない

あれは彼の人の形を模した虚像でしかない

人の願いを糧とし星の命を吸い上げ

英雄いや英雄の名を冠する神は呼び降ろされた


自分たちの祈りが何を成してしまったのか

気づいたところで打つ手など存在しなかった

知らない者に説いたところでもはや意味はなかった

例え知っていたとしても誰がその祈りを止められただろうか


先の霊災でも似たことが起こったことを何人が知っているだろうか

人の祈りは神を生もうとしていた

かの賢人ルイゾワは自らの命を絶つことで完全な蛮神化を回避したという

しかし今回そのような抑止力は存在し得なかった

神降ろしは完遂した

人は過去に学べなかった

学ぶべき過去の扉は閉ざされていた


さらに悪いことに彼らの善き世界への祈りはエオルゼア三国に留まらなかった

山の国イシュガルド

東の国ドマ

遊牧の民が住まう平原の地

動乱の地アラミゴ

戦地ボズヤ

彼のガレマールにすら折った者はいただろう


彼の人が世界を駆け多くの民の希望となったことが最悪を招いた

あの時とは比べ物にならないほど多くの者が彼の人を思ってしまった

嘆いたところでもはや人に成すすべなどありはしない


打ち倒そうにもあれほどの力を持つ者を誰が相手取れようか

新たな英雄の誕生を待つ時間はもうない



「あれ」が地に降り立った瞬間世界は急速に終場に近づいた

この霊災は光の霊災

死の毒は停滞の光

そして人々が思う彼の人はいつだって「光」に満ち溢れていた

それこそが最悪だと

それこそまさしく停滞だと

光こそが霊災を加速させるのだと

人々が願った英雄の形

願いによって形作られた光の蛮神

それこそが光の霊災として世界にとどめを刺すのだと

気づいたところで今さらと言うしかない



星の悲鳴が聞こえる

あまりに膨大な力を注がれた器が世界を札ませている

英雄を模した陽炎は果たして何を成すのだろうか

救いを乞われた神はしかし何をしようと星の命を蝕んでいく

滅びは加速するー方だ


だが知らぬ者にとっては

あるいは

あの光景は救いなのだろう



彼の人が今のこの世界を見たらどう思うのだろう

ふと頭をよぎった

自嘲気味に笑う

こんなことを考えるとは

終末が近づくと却って暇になるらしい


それこそ私には知り得ないことだ





これが良いことであるのか悪いことであるのか

私にはわからない

それはこの後の歴史が語ることだろう

歴史が残るならばの話だが

もはや私にできることなどほとんど残されていない

あの奮神によって強まった光の毒は遠く離れた地に逃げた私すら触み始めていた

もはやこの星に逃げ場はない

抵抗する者たちの力も徐々に失われていくだろう

段々と身体が思考が停滞していくことを感じる

私にできるのはただ可能な限り生き残りこの光景を見届けるのみ

在るかもわからない未来に伝えるために


ただすぐにあの蛮神が現れた地を離れたのは不幸中の幸いと言うものだろうか

あの地に留まれば超える力を持たぬ私はこのような記録を残すこともできずに信徒と化していただろう

信徒と化して命の終わりにすら気づかず朽ちることの方が少しずつ死んでいく身体を引きずりながら記録を残すことよりも幸福だと思う者もいるだろう


だが



それでも

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