第48話 vsターミナル
「俺は、重荷でしかない――」
じゃあ捨てろと言って納得するプリムムではなかったはずだ。
だったらどうするべきだった――?
その答えを、ターミナルは与えてくれたはずではないのか……?
声を大にして言えるが、弥は、ターミナルよりもプリムムを選んだ。
ターミナルと敵対する事を、この意思で選んだのだ。
だから覚悟はできている。
たとえどうなろうとも、命の恩人であるプリムムのために――!
「プリムムッ!」
弥が彼女の額に己の額を合わせ、
「この俺を使え、俺がお前を、装備してやる!」
痛みを無視して動かした手で、握ったプリムムの手を決して離さない。
この決意を絶対に曲げたりはしない。
「お前を絶対に、生き残らせてみせるッッ!」
それが少年の、約束である。
―― ――
途切れかけた意識が少年の声によって呼び戻された。
額を合わせ、想像以上に密着しているため、弥の声はよく聞こえ、体に響く。
彼の体温を感じた。冷静を装う彼は、いつもよりも熱かった。
きっと、彼にとってはこっちが本当の姿なのだろう。
どうして普段を冷たく演じているのかは分からないが……。
素直になれない自覚があるプリムムも、人の事は言えない。
自分の本当の姿など、簡単に見せられる方が珍しい。
……だってそれは、弱さなのだから。
だからプリムムは、弥が宣言した約束に、こう答える。
「――破ったら、タダじゃおかないからね」
―― ――
プリムムを装備する――。
それが具体的にどうなることを言うのか、弥は知らなかった。
百聞は一見に如かず――、まさにその通りで、もしも説明されていても、理解はできなかっただろう。青白い光に包まれたと同時に、握っていたプリムムの手の感触が、消えた。
目の前にいたプリムムの姿もなくなっている。
ただし、温もりはさっきよりも感じていた。
そして違和感なく腕が動かせる事に、逆に違和感を抱く。
折れているはずの両腕が、まるで完治しているように、スムーズに動くのだ。
腕を見下ろせばそれどころではない変化が見えている。弥の格好が、変わっていた。
制服ではなく、機械的な、【フルボディ・アーマー】である。
首から足のつま先まで、頭以外の肌は見えておらず、銀と緑色に染まっていた。
手を、握ったり開いたりして動かす。
感覚は生身と変わらないが、見た目や音は、義手のようであった。
なるほど、と弥が納得する。
装備とは、纏うという事であり――、
アーマーズとは【鎧少女】であるのか、と。
「……っ、ッ!?」
すると弥の背中に柔らかいものが当たる。
そして首に回されたのは腕だ……、誰のか、など、口に出さずとも分かる。
想像だけなので正確な事は分からないが、
背中の感触からして、彼女は裸、なのではないか……?
『弥からは見えていないでしょ?』
プリムムの視界は、真っ黒な部屋に、弥と二人きり。
彼の背中に抱き着く事で、弥の今の姿が作られている。
その空間で目を瞑れば、弥と同じ視界を見る事ができ、彼の思考もいくらか共有できる。
つまり、考えている事が、ほとんど筒抜けなのだった。
『ふん……、スケベ』
「言っておいてくれればなあ……」
こんな事になるなんて、プリムムだって知らない。
それに、余裕を見せるプリムムだが、彼女も彼女で恥ずかしさがないわけではないのだ。
弥からプリムムの事が見えていれば、きっと彼女も
……絶対に狼狽しているでしょうね。
「ああ、プリムムの思考も僕は分かるのか」
『っ……! ね、ねえ、互いのそういうのは、進んで覗かないようにしましょうよ……』
「賛成だ」
からかえば、同じ力で返ってくる。
二人はこの時、停戦協定を結んだ。
「なんだ、それは……ッ!」
ぎりり、と噛みしめた歯から、音が鳴る。
握り締めた剣の柄に、必要のない力が加わっていた。
弥とプリムムの変化に、ターミナルが怒りを見せている。
怒りだが、根本は嫉妬であるだろう。
そして自分を鼓舞しているようにも見える。
感情を爆発させて、誤魔化さなければならないと、彼女が判断したのだ……本能的に。
逃げ出す事は、ターミナルのプライド的に、できないだろう。
あのプリムムから逃げたとなれば、一位に君臨する成績優秀者として、もうプリムムに偉そうな事を言えなくなる。彼女はこの立場を失いたくなかったのだ。
「力量差が、そこまであるのか……?」
『さあ? ターミナルに聞いてみれば?』
しても、ターミナルは正直に答えないだろう。
だからプリムムに聞いたのだが……、
『私も分からないわよ、力量差なんて。
ターミナルの本気を知っているわけじゃないし』
でも、とプリムムは自信を持って言った。
『体の内から湧き上がるこの力なら、負ける気なんてしないけど』
プリムムのその発言に、油断はするな、と言いそうになったが、
ターミナルを見てその言葉を飲み込んだ。あまりにも、彼女の突撃は無謀過ぎたのだ。
握る剣の構えはめちゃくちゃで、
軽く腕を小突けば、剣を落としてしまいそうに不安定だった。
恐怖を無理やり押し潰すように叫び、勢いだけである。
戦術なんてなにもなく、
近づいては斬る、という原始的な一撃を、弥はどう処理しようか悩んだ。
あまりにも無様に見えて、倒す価値などないと思ってしまったのだ。
……プリムムの能力は、確か砲撃……。
彼女だけであれば、威力に耐え切れず、手首を痛めてしまう。
では、この状態であれば、どうだろうか。
出力を、攻撃と言える最低限まで抑えれば、ターミナルを気絶させるくらい、できるだろう。
目的は、反動を耐えられるかどうかの、テストである。
ターミナルとの対峙は、片手間である。
そんななめられ方をしていても、ターミナルは気づきもしなかった。
これくらいか、と細かい調整はせずに、大幅に威力を下げただけで、手の平をターミナルに向ける。あとは体の内のエネルギーを、弾として撃ち出すだけだ。
準備が整い、発射する一瞬の前の段階で、プリムムが気づいて、咄嗟に叫んだ。
『――ダメッ、ターミナルが消し飛ぶッッ!!』
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