――おまけ読み切り【part2】/トライアル・アーマーズ
第41話 出会い
静かな森の中、一際巨大な大木の真下にある泉を見つけた少女がいた。
周囲を念入りに確認して、誰も近くにはいないと確信し、口元を緩ませる。
……試験が始まってから、三日ぶりの水浴びだった。
白い背景に青のラインが入った、
体にぴったりと張りつくスーツを脱ぎ、一糸纏わぬ姿になる。
そして、つま先から順番に入水させていく。
冷たさに体が震えるが、汗や汚れが浄化されていく感覚に快感を覚えた。
腰まで浸かったところで、手の平で水をすくい、肩にかける。
心許ない胸元だが、十五歳であれば普通だろう。
無駄のない引き締まったスタイルだ。
痩せ過ぎというわけでもなく、色白で、血色も良い。
明るいベージュ色の髪は、長めのリッチウェーブだった。
毛先が肩に乗り、色っぽく見せている。
文句のつけようがない美少女とは、きっと彼女の事を言う。
「……なんで、私が選ばれたんだろう――」
少女・プリムムが参加する試験には、三十名が選ばれている。
成績優秀者順、というわけではない。
プリムムは下から数えた方が早く名が呼ばれる、落ちこぼれの部類に入るのだ。
そんな彼女が参加しているのだから、別の理由だろう。
法則性が見つけられなかったのだ。
成績優秀者も選ばれてはいるものの、全員ではなかった。
正直、成績に差がほとんどないのに、
片方が選ばれ、片方が選ばれていない基準が分からなかった。
くじ引きでもして決めたと言われたら納得してしまいそうだ。
「ううん、余計な事は考えない。マザーがくれたチャンスを活かさないと」
水面で仰向けになり、足を伸ばして浮かぶ。
プリムムは自分の首元にある、肌とは違う感触を指の腹で撫でた。
硬質な指触り……、【コア】と呼ばれる、緑色に輝く石だ。
今、彼女たちはこのコアを互いに奪い合っている。
そして恐らく、残り数名になったところで、試験は終了するだろう。
勝者一人を決める、とは言っていなかった。
合格者を選定する、と言っていたのだ。
今もずっと監視されており、評価されている。
この惑星の最高権力者・マザーが選抜する、特別な部隊に参加できる者を、だ。
「……私でも、マザーの力になれる……」
選ばれたという事は、それなりのものをプリムムは持っているのだ。
成績には反映されない部分を見てくれた。
だとすれば、今の自分を誇るべきだろう。
プリムムにとって、マザーは恩人だ。
彼女にとって世界の全てと言ってもいいくらい。
恩返しができるこんな機会は、きっともう、何年待ってもこないだろうと思えた。
だからこの試験、プリムムは脱落できない。
諦められない理由があるのだから。
やがて水面に波紋が大きく広がる。
プリムムが底に足をつけ、漂っていた状態から立ったためだ。
元々、若干、攻撃的な目である彼女の視線がすっと細められ、警戒を強くする。
周囲には誰もいなかったはずだが……、それはさっきの話だ。
気配を消して近づく学生がいても、不思議ではない。
水面に浮かんでいたのは、葉だ……、さっきはなかった。
すると、舞い落ちた葉が、さらに数枚、浮かんでいる。それは今もまだ増えている。
プリムムは、遅れてはっとし、上を見上げた。
枝先の葉でちらちらと遮っていた光を、さらに覆う物体が、
プリムムの目の前、大きな水飛沫を立てて落下する。
視界を満たす、輝く鏡面の中、彼女は人影をその目で捉える。
彼女は知る由もない事だが、目の前にいるのは、同年代の少年であった――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます