第17話 告白

「アイスコーヒーとアイスミルクティーをお願い」


 少し洒落た喫茶店を入った僕は注文を取る。


 入る前に姫神さんの希望を聞いていたのですんなりと事は進む。


 場所は扉から一番遠い奥の席。


 出来れば、誰にも聞かれたくない。


「どうぞ、ご注文の品です」


 ウェイターが丁寧な動作で商品を並べ、去っていく。


「ふー、美味しい」


 疲労と共に暑かったのか軽く服を煽ぎ、ミルクティーを軽く口を含む。


 服で煽いだ際、姫神さんの白い肌が見えたのは不可抗力だと弁明したい。


(南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経)


 このまま姫神さんと世間話をしてお茶を濁すのも一興。


 けど、それで終わらせるわけにはいかない。


 こうして姫神さんと二人きりになれるチャンスが後何回あるのか分からない。


 だから、ここで決める。


 漫画や小説なら軽い世間話をしてムードを盛り上げるのだけど、そんな器用なことは僕に出来ない。


 そう、だからこそ。


「姫神さん。いや、姫神柚木さん」


(南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経)


 僕は必死に胸中唱題を行い続ける。


 一瞬でも途切れさせたら僕は何も言えなくなってしまうから。


「? どうしたの、時宮君」


 僕のただならぬ様子に姫神さんは少し居住まいを正す。


 ああ、姫神さんは覚悟が出来たんだね。


 それなら僕も遠慮なく言おうか。


(南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経)


「姫神柚木さん、僕は--」


「僕は?」


(南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経)


「僕は、君のことが--」


(南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経)


 さあ、全てをぶちまけよう。


「好きなんだ。--僕は君のことが好きだ。付き合って欲しい」


「……」

 沈黙が--痛い。


(南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経)


 姫神さんの眼を見ることが出来ない。


 けど、確認しなければならない。


(南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経)


 僕は胸中唱題を終え、顔を上げる。


 姫神さんの表情は--悲しみと苦しみ。


 ああ、分かっていたよ。


 けど、実際に来るとキツイね。


 姫神さんはその可憐な唇を少し開き、沈痛な声でこう絞り出す。


「ごめんなさい、時宮君」


 あれだけ祈ったのに。


 僕は姫神さんに告白し、振られた。


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