第14話 私服ファッション

 黒城さんが許可したことで話はトントン拍子に進む。


 複雑だったのが、姫神さんが及川の誘いを二つ返事でオーケーしたことと、その日から姫神さんが目に見えて上機嫌になったところだ。


 ……そんなにも及川のことが好きなのか。


 及川の眼には黒城さんが映っているにも拘らず、変わらない好意を向けている姫神さんを一途だと称えた方が良いだろう。


 そうでないと、そんな姫神さんを好きな僕の立つ瀬がないからね。


「僕が一番……と、いうわけでもないか」


 約束の時間まで後三十分あるので、僕が最初かと思いきや先客がいた。


「おお、時宮か。お前も早いな」


 僕の姿を見つけた及川が手をあげてアピールする。


 長身でイケメンの及川は不必要に飾り付ける必要がない。


 ジーンズにTシャツと、青を基調としたジャケットの三点があればモデルとしても通用できるいで立ちだった。


「相変わらず格好良いね」


 時折女子がチラチラと及川を見ているのを知りながら軽いジャブ。


「ハハハ、そういう時宮も似合ってるぞ」


「ハイハイ」


 及川のお世辞に僕は肩を竦めて流す。


 一般男子の平均身長にすら届かない僕のスタイルは、黒を中心としたタイトな服装と、銀の鎖ネックレス、そして黒縁の伊達眼鏡。


 ネットで僕と同じぐらいの身長のモデルの服装を参考にしてコーディネート。


 ただ、ネックレスや伊達眼鏡は持っていなかったので買いに行った結果--一万円が吹き飛んだ。


 まさか僕が装飾品に金を出す日が来るとはね。


「いや、本当に凄いぞ。俺としては野暮ったい服装で来ると予想していたのに」


「君は僕を何だと思っていたのかすぐに分かる発言だなそれは」


 滅茶苦茶失礼な言葉だが事実なので苦笑する。


 及川に言う通り、僕は普段着にちょっと手間をかけた服装でいこうと思っていた。

 ただ、唱題しているうちに、人生で初の告白をするのにそれはどうなんだ? という疑念が思い浮かぶ。


 後悔はしたくない。


 だから僕は思いつく限りのファッションで今日を臨んだ。


「いやあ、時宮。今のお前ってなんか生徒会長っぽいぞ」


「真面目ということを言いたいんだろうが、生徒会長様がネックレスを付けると思うか?」


 百歩譲って黒縁眼鏡は良いとして、銀の鎖ネックレスは真面目な性格なら付けないだろう。


「まさにそれなんだよ。タイトルは『お堅い生徒会長の休日』ちょい悪な感じがして中々イケてるぞ」


 男に褒められても嬉しくないし、その中でも及川だと軽い殺意が湧くのは何故だろう?


 本人に悪気はないのだけど、何となく高みから見下ろされている気分になるんだよね。


「時宮、お前はもうちょっと自信を持てよ。何なら軽くナンパしてみるか?」


 こう気軽にナンパと言えるのが及川なんだよな。


 姫神さん一筋の僕には永遠に出来そうにない芸当だ。


「戯言はそこまでにしておこう」


 僕は肩を竦める。


「想い人達が到着したよ」


 僕の視線につられて及川も顔を上げ、ニカッと笑顔を作る。


「おお、姫神に黒城さん。二人とも綺麗だな」


 及川と同じ意見になるのは腹立たしいが、それを抑えて同感しよう。


 と、僕は心の中で呟く。




「あら、待たせたかしら?」


 小首をかしげるのは黒城さん。


 見た目は黒髪清楚な美少女なので派手なアクセサリは不要。


 黒髪とコントラストとなる白のワンピースにネックレス、そして手提げバッグだけの簡潔装備だけど、それが最適解であるように思える。


「いや、俺達も今来たところ。だから何も問題はない」


 さすがだな、及川。


 さわやかな笑顔でそう言われると僕ですら気にしなくなる。


「んもう、及川君。またそんな嘘を吐いて」


 そう頬を膨らませるのは僕が恋焦がれる姫神さん。


 ゆるふわの髪を抑える帽子に、淡いピンクのブラウス、フリルのついたスカートとファンタジー風。


「姫神さん、もしかして君はウサギの穴から戻ってきたアリスじゃないのかい?」


 思わずそう口を突いて出た。


「アハハ、面白い冗談だねぇ、時宮君」


 心底おかしそうにコロコロ笑う姫神さん。


 ああ、その笑顔を見るだけで今日ここに来たかいがあったよ。


「あらあら、私に何か言わないの?」


 何故か黒城さんが不機嫌だ。


 腕を組んで軽く唇を吊り上げている。


 ……僕が言うのか?


 と、いうか僕よりの適任者がいるだろう。


 僕は黒城さんに見えない様注意しながら及川の腰を叩く。


「ああ、さすが黒城さんだ。一目見て君だと分かったよ」


 言葉だけ抜き出せば陳腐なセリフ。


 しかし、及川のスマイルと迷いなく言いきったので賞賛の言葉へと昇華する。


「あら、ありがとう」


 それに反応してか黒城さんは少し目を見開いた後に微笑む。


 その微笑みを僕は初めて見る。


 ズキン。


 そして走る心の痛み。


 僕が好きなのは姫神さんなのにどうして苦しいのか。


 原因は分かっている。


 黒城さんが及川に笑みを向けたからだ。


「……最低だな、僕って」


 あまりに身勝手な僕自身の独占欲に僕は上を向いて自嘲するしかできなかった。

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