創価学会の信心、始めるしかありませんでした

シェイフォン

第1話 溺れる者、信心にかける

「祈れば、良いのか」


 僕は問う。


 ご本尊の前に座るのは初めてだ。


 形だけ入信し、家族の誰も祈っていなかった昔。


 押し入れの奥にしまわれていた仏壇とご本尊セット。


 それを出したのは恐らく僕が初めてだろう。


 ただ、相当長い間しまわれていたので埃だらけであり、軽く掃除をしなければならなかった。


 本体のご本尊に汚れやカビ、シミがなかったのが唯一の救いだ。


「これで良いのかな?」


 スマホで画像検索し、それっぽく仕立て上げていき、現在に至る。


 カーン、カーン、カーン。


 鐘を鳴らし、数珠を手の指の間に通す。


 祈る内容は決まっている。


「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経」


 どうか、僕の願いを叶えてくれ。


 いや、叶わなくても良い。


 この体の内から湧き上がるどす黒い感情から僕を解放してくれ。


 それだけが僕の望みなんだ。


「南無妙法蓮華経、なむ……」


 思い返す度に泣きたくなる。


 どうして僕がこんな目に遭わないといけないのか。


 死にたい。


 けど、死にたくない。


 怒りと悲しみと絶望が僕の心を激しくかき乱す。


 声が震え、何度も何度もつっかえる。


 それでも僕は拝むことを止めなかった。

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