序章
「こんなところに隠れていらっしゃったのですね」
水面に雫が落ちるかのように。静かに落とされた言葉はひどく凍てついていた。
暗闇に沈んだ寝室に、廊下の灯りが洩れ入っていた。影を床を這う。陽炎の如く揺れる影は、尻餅をついた格好で
男の心臓は怯えに
赦しを
――なんて滑稽な
「今更、何を
不気味な薄笑いに男の肌は粟立ち、計らずも身震いした。呆れと憐憫の篭る声に、背筋が凍る。
「悪には悪の鉄槌を」
朗々と
尚も逃げ
嗚呼。また一人、身の
歩みを進める度、仄灯りに濡れ、徐々に
「……ダ、ダウズウェル……伯爵」
紅い唇が、ゆるい弧を描く。それは甘い、甘い、
「さて。余興の時間は終わりだ、子爵」
ひどく緩慢な所作で、伯爵は剣を振り上げた。男はただただ、その鋒の行方を呆然と眺めることしかできない。
なんと哀れで、儚く、醜悪な命か。
「チェックメイト、だ」
またひとつ、舞台から駒が落ちた。
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