宵月とレシート

 月曜日、放課後になると俺は公園へと急いだ。香月君や可愛いあの子の通っている高校より、俺の通っている高校のほうが駅には近いが、それでも彼女が俺より遅く公園を通るという保証はない。

 公園のベンチに座って、俺は息を整えた。少し浅くなっていた呼吸を止め、何度か深呼吸をした。

 そのとき、なぜか頭の中にあることが浮かんできた。それは全く予期していなかったもので、いいアイデアが浮かんだとか、問題の答えが分かったとか、そういった瞬発力のあるものではなく、ボールがコロコロと転がってきたような感じだった。

 あの可愛い子と香月君が知り合いだとしたら、友達とも知り合いということはないのだろうか。

 俺の頭はそう言った。そして、それはなかなかいい考えだと思った。まだまだ道は残っていると、少しうれしくなった。すぐに細い道だと考え直したが、それでも淡い期待は残っていた。

 俺はそのまま彼女が公園を通らないか待った。しかし、彼女は外灯が灯されても来なかった。

 そして、同じようなことが火曜日、水曜日と続いた。違ったのは水曜日がいつもより3℃も寒くなったくらいだった。

 しかし、木曜日は違った。

 放課後、まだ太陽が黄色い頃、公園へと入った瞬間に、彼女が見えた。あのときと同じように、可愛く、可愛らしく、少し美人な彼女が公園の真ん中を歩いていた。

 俺は思わず立ち止り、それを見た。黒い髪も、制服も、鞄も、彼女のものだった。

「あの、すみません」俺は彼女の前でそう声をかけた。

「はい」と上目遣いで、可愛い視線をこちらに向ける。

 さぁ、俺は何を言うべきだ。どこから接点をつくる。

「もしかして、お金を拾ってくれた方ですか?」

 彼女は真っすぐな視線を外さずにそう言った。なぜ彼女がそれを知っているのか、今さら言葉に出さなくてもいいだろう。

 俺は、はい、と真実になりかけた嘘を吐いた。それから財布から千円を取り出し、その裏にコンビニのレシートを添えて一緒に渡した。

 彼女はそれを触る時、一瞬、戸惑ったようだが拒否することなく受け取ってくれた。それはそうだ。そうでなくっちゃ。

「ありがとうございます」

「いえいえ」

 俺と彼女はそれだけ言って、別れた。

 彼女の名前は、宵月美季。それが夜送られてきたメールで分かった。

 レシートは、メモ帳として役に立つ。

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