友達と死
友達が死んだのは、2004年9月の下旬。首を吊り、自らを殺した。十七歳だった。
俺たちクラスメイトは、その死を担任の口から曖昧に聞かされた。担任はただ「昨晩亡くなった」と言っただけだったが、静寂の中にざわめきがあるのを誰もが認識していた。
その後、俺だけが指導室に呼ばれ、友達は自殺をしたのだと知らされた。親はそれを隠したいらしく、葬儀は家族だけでひっそりと行うということだった。
なぜ担任は俺にそれを伝えたのだろうか。
答えは簡単だ。俺たちが友達だったからだ。
友達というのは、よく分からないものだ。家族のように血で繋がっているわけでもない。恋人のように誓いあった仲でもない。それなのに、俺たちは俺たちのことを友達だという。
なぜ?
根拠は?
どこから友達?
いつから友達?
そんなもの知らないし、分からない。だが、あいつと俺は友達だ。
クラスメイトの一人が死んだというのは、大きな事件だった。一度も友達と会話したことないだろうと思われる女子や、別段仲の良いわけじゃなかった男子も友達のことを話していた。そして、どこから漏れたのか自殺のことが噂されはじめた。蔵で首を吊ったという情報は噂で知った。誰かが話題にするともれなく付いてきた。友達を見たことあるかどうかも分からない他クラスの奴や、違う学年の奴らも話のネタにし始めた。
それが良いことか悪いことか、俺には決めることができなかった。ただ噂話が勝手に耳に入ると、必ず気分が悪くなった。
一人のクラスメイトが俺に言った。お前が一番仲良かったんだから何か知らないのか、と。
俺はその度に首を振ることしかできなかった。でも、心の中ではこう悪態をついていた。
そんなもの知らないに決まっているだろ。俺たちは確かに友達だが、知らないことだってある。お前たちもそうだろ。恋人や親の全てを知っているのか。知らないだろう。
だが、そういう態度をとっていても、やはり俺は友達で、あいつのことを一番知っているのは俺なのではないかと思う人は多かった。その中には、友達の両親もいた。
担任を介して、俺は友達の親と会うことになった。十月の上旬で、その日は雨が激しく降っていた。
放課後、職員室で数十分待たされ、その後に校長室で友達の両親、担任、そして校長と話をした。話といっても、大半は質問だった。親が俺に、学校生活に問題がなかったか聞いたのだ。
俺は、問題はなかったと正直に言った。あなた方が考えているような辛い出来事は一切なかったと断言した。
あなた方のお子さんは大人しかったが、誰かに嫌われることもなく、苛められることもなかった。もし誰かが苛めていたのだとしたら、それは俺になるだろう。俺たちは友達だった。ちょっとしたちょっかいや悪戯をしたことはある。もしかしたら、それを苛めと勘違いした馬鹿がいなかったとも限らない。
友達の親、とくに母親は目に涙を浮かべながら、それでも何か原因があるのではないかと聞いてきた。俺はこれにも、首を振ることしかできなかった。
あいつが死を選んだ理由を、俺は本当に知らないのだ。そして、想像しても分からないのだ。これは誰もがそうなのだと思う。一番身近な家族、高校に入ってから一番長い時間を共に過ごしただろう俺にさえ分からないのだ。
そのことをしっかりと認めると、俺の中にある道徳心のようなものが少しだけ傾いた。
友達なのに何も知らなかったのか。
俺は俺にそう言った。
もちろん俺は、友達にも分からないことはある、とクラスメイトに言ったときよりも強い口調で反論した。
でも、俺は折れなかった。じゃあ、友達じゃなかったのかもね。生意気にそう言った。
雨の中を帰りながら、玄関扉を開けながら、部屋着に着替えながら、ご飯を食べながら、宿題をやりながら、テレビを見ながら、風呂に入って髪を洗いながら、風呂あがりのアイスクリームを食べながら、歯を磨きながら、明日の準備をしながら、目覚まし時計をセットしながら、布団の中に入りながら、そして眠りにつくまで、俺は死と友達の自殺、そして理由について考えた。何も答えは出なかったが、俺はどうにかして分からないものかと思い始めていた。自分にも親はいるし、子供はいないにしろかわいい弟がいる。家族の誰かが自ら命を絶ったとなると、やはり悲しいだろうと思う。そしてもちろん、なぜそんなことをしたのか、理由が知りたくなるだろう。
秋雨前線がようやく消えるという頃に、俺は一つの決心をした。いや、決心というほど力強いものではない。少しやってみようかなと思っただけだ。つまりは友達を失くした自分を慰めたかっただけだ。
あいつはなぜ自殺をしたのだろう。それを知ることにした。
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