~他者視点 ディートハルト・ブランケンハイム~

 ハイジが親父さんから許可をもぎ取った事で、俺らは無事出立出来る運びとなった。といっても、準備は既に十分できていたので、後はハイジの身一つあれば大丈夫、という状況ではあったのだが。

 特にお咎めがないので、愛称で呼ばせて貰ってはいるが、俺はハイジに感謝しているし、尊敬もしている。軍で腐っていた俺を拾い上げてくれたのが他ならぬハイジだから、というのもあるが、それ以上にあの先見の明には末恐ろしいものを感じる。頭の悪い俺には、よく理解できない事も多々あるが、それでも、ハイジの考案した施策が俺たちの生活を各段に良くした、という事は実感している。15にも満たない少女が、だぜ?こんな痛快な事はそうあるもんじゃない。

 軍から引き抜いて貰った時もかなり世話になった。元々、軍内では厄介もの扱いだった俺だが、突然同僚に嵌められて、あわや失職、という状態。昔から何故か馬の合った将軍は俺の潔白を信じてくれていたが、如何せん証拠はでっちあげられるわ、悪評をもとに他の奴らが扇動されるわ、で窮地に立たされていた。まあ、今思えば自業自得の部分も多々あったがな。

 そんな中、軍部内を宥め、かつ真相究明に乗り出したのがハイジだった。その時は本当に驚いた。今ではもう当たり前のように感じられているが、ようやく10を越えたような娘っ子がいきなりしゃしゃり出てきたと思えば、はっきりと「私が真実を明らかに致します」と宣言したんだからな。正直、「何を馬鹿な」と思ったし、半信半疑でもあったが、他に縋れるものは無かった。俺は駄目元でハイジに協力し、――結果的に賭けに勝った訳だ。無罪を勝ち取っただけではなく、あいつについて行く事で、それまで以上の自由も得られた。

ハイジの才覚は素晴らしいが、それだけに一部からは反感も買っているだろう。もしかしたら、その中から危害を加えようとする輩が出てくるかもしれん。俺はそんな奴らからハイジを守りたい。恩義もあるし、不敬かもしれないが、「娘」のようにも思っているしな。当然、今回の旅も気を抜くつもりは無い。


「お前ら分かってんな!お姫様のエスコート何ざ、貴様らには勿体無い、騎士の誉だろう!!

見惚れたり、気を抜いたりするんじゃないぞ!

ハイジの馬車に石一つでも当たりでもしたら、死んだ方がましだと思える位しごいてやる!」


「サー!イエッサー!」


「ふざけるな!大声だせ!タマ落としたか!」


「……サ、サー!!イエッサー!!」


 部下たちに喝を入れてやり、自分の愛馬へと跨る。俺の役割は馬車の直衛だ。エルンストが前衛に回り、フリッツは殿。クラウディアとカミラはハイジの馬車に同乗、話し相手兼護衛。そして、部隊とは別に、偵察要員としてカミラの部下数人が配置されている。この陣容であればそうそう後れをとる事は無いはずだ。少数とはいえ、精鋭を集めているしな!


「よし!出立だ!」


 一糸乱れぬ隊列を維持しつつ、街道へと歩を進める。

よし!順調な門出だ!このまま神都まで行くとしよう!

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