格差社会における異世界転生について

ゆきしろ

~プロローグ~

「不幸だね、不幸だねぇ。……おっと間違えた。」


「いや、ほんまに不幸な事故でした。心よりお悔み申し上げますわ。」


 その姿に似合わぬ似非関西弁で話すもふもふ。その周りを取り囲む8つの影。彼らは、眼前の光景に驚愕するとともに、何故か「またか」という既視感を覚えた。あたかも、こんなことが今までに幾度となくあったかのように。そして、徐々にそれが真実であることを確信していった。そう、これは何10回、或はそれ以上に繰り返された茶番劇――。


「本当は事故の直前で運転手が目を覚ますことになっていたんですけどね……。それがちょっとした手違いがありまして。いや、災難でしたわ。」


 そして、彼らの胸の内とは関係なく、話は続く。そもそも、口を動かそうにも微動たりしないので、垂れ流される中身のない謝罪を糾弾する術が無いのが現実だ。8つの影の外側には何もなく、ただ何処までも続くかのような白い空間が見えるだけ。第三者の介入を期待する余地もない。


「申し訳ない事をしたお詫びに、今回、アンタらには特典を付けることにしました。いやはや、太っ腹ですって!転生時に特別ボーナスをお付けします、っていう話ですよ!どや!ええやろ!?」


 そもそも、自分たちが眼球によって目の前の光景を把握しているのかすらよく分からない。匂いや風が肌を撫でる感覚は全くないのだから。聞こえてくる耳障りな甲高い声も、耳と鼓膜を通して得られている情報ではないのではないだろうか? そんな気もしてくる。


「ただ、残念な事に、全員にたんまり、という訳にはいかんのですわ。あんまりやり過ぎると機会平等がなんちゃらって、他の連中とのバランスが取れませんからな。いやはや、お役所仕事も大変なこっちゃ!本当は、ば~ん!っと景気よくいきたいとこなんやが、残念ですわ。」


 人形のような容貌だが手足は一応動くらしく、ジェスチャーを入れて残念さをアピールするも、彼らにはそれが全く空虚なものであることが既に理解できていた。


「そんな訳で、今回はボーナスポイントを使った数の順位に応じて、ビッグな特典を配分するさかい、皆奮発して~な!まあ最下位でもマイナスにはならないんで、安心しいや!何せ特典でっからな!ぎゃはははははははっ!」


 何がおかしいのかよく分からないが、腹らしきものを抱えて爆笑するもふもふ。冷たい視線が一通り集まったところで話を続ける。


「ついでに、特典とは別に前世の記憶もつけたりますわ。まあ、最初からではなく、横並びのタイミングにしますがな!平等なのは大切な事でっせ!それが能力的なものを考慮するかは別ですがね!」


 何だかよく分からないが、今までと違って「有利」な条件で始められる、という事だけは理解出来、安心する彼ら。そして……。


「で、今回は――」

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