水菓子
【再会のメニュー】
出会いは偶然だった。
わかれは突然だった。
この再会は必然と言えるだろう。
あれから一週間が経った。
僕の前から突然消えたルナが、再び僕の前に顔を見せてくれた。
あの日と同じく、捨てられた犬とか猫みたいに寂しそうな表情をしていた。玄関前で、一人ポツンと立たせたままなのもアレなので、とりあえず中へ入ってもらうよう促した。
「待ってたよ。お腹空かせているんじゃない?」
「…………」
僕の言葉にルナが目を上げた。
視線がぶつかり合うと、過去に僕たちの間で起きた色々なことを思い出し、互いに微笑み合った。
と、ルナの手にエコバッグがあるのに気付いた。
それはいなくなったあの日に、消えてしまったエコバッグだった。
中には何やら入っている様子。
「なにか買ってきたの?」
「…………」
ルナはうなずくと、エコバッグを開いて中身を見せてくれた。
そこにはキャベツが一玉と、値引きシールの張られた豚肉のパックが入っていた。
「なにか作って欲しいものがあるのかな?」
「…………」
僕の言葉にルナは小さく首を振った。
はて……? どうも様子が分からない。
だが真剣な表情からして、どうやら大事な目的があるようだった。
そこで僕は名探偵よろしく、ピンときたことを口にした。
「ひょっとして、僕に作ってくれるのかな?」
「…………!」
ルナは頼もしく、大きくうなずいた。
「それはうれしいな! そうと決まれば僕も手伝おう!」
「…………!」
「キャベツと豚肉か、おいしい組み合わせだよね! 生姜焼きとか、トンカツとか、ホイコーローとか。あとはあとは……」
僕が思いつく限りのメニューを羅列していると、ルナは懐かしのエプロンを巻きながら、ずんずんとキッチンに入って行った。そして、冷蔵庫から缶ビールを取り出して、「持って行け」とばかりに押し付けてキッチンから追い出そうとした。
どうやら全部一人で作る気らしい。
どうもそれが大事な事らしい。
ならば好きなようにやらせよう。
キッチンからは、何やらびゅんびゅんと回している音が聞こえてくる。
しばらくするとなんともいい匂いも漂ってきた。
なんだかジーンと込み上げるものがあった。
それが何なのか、自分でもよく分からない。
ただ、ルナの料理を食べた後は、ちゃんと伝えなければいけないことがあるのを改めて重く受け止めた。曖昧なままにしておくのは、やはり良くない。
しばらくして、ルナが出来上がった料理を意気揚々と運んできた。
僕のお腹が久しぶりにぐぅと鳴った――。
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