【料理の腕前】

 今日は、久しぶりに彼女が家に遊びに来る日だ。

 僕はそわそわしながら彼女を待っている。


 呼び鈴が鳴ってドアを開けると、そこには笑顔で立つ彼女がいた。

 両腕にはいっぱい食材が入ったレジ袋を提げている。


「お待たせ! 今日はフタヒロに美味しいものをいっぱい食べさせてあげるからね!」


 満面の笑みでそう言いながら部屋に入って来る。


 しかし、僕の笑顔は心なしかひきつっていたと思う。

 何故なら、彼女は絶望的に料理が下手だったのだ。


 部屋に上がるなり早々と台所へ向かう彼女。

 今までは絶望的な料理が数多あまたでき上がっていた。


「腕によりをかけて作るからね! 期待して待っててね!」


 台所から聞こえてくる彼女の張り切った声。

 彼女の手料理は、僕に対する愛の証だ。

 それは分かっている。頭では分かっているのだ。

 しかしだ! 僕の舌が、味覚がついてこないのだ!


 彼女に料理を作らせるべきか否か。

 この日が来るたびに突き付けられる緊張感と悩ましい二択。


 やっぱり僕は彼女を阻止すべきなんだろうか?

 男らしくガッツリ食べるべきだろうか?


 自問自答しながら台所へと向かう僕の足取りは思っていた以上に重かった――。

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