第10話 第八話 世界構造と魔神の力と初めての仲間


「お疲れ様」


  短く黒い円錐形の角を毛先が淡く燃える処女雪の髪からのぞかせた少女は、エレメンターが纏っていた巨大なゴーレムが崩れた残骸のいただきにて意識を朦朧とさせ、つい先程気を失ってしまった小さき豪傑を受け止めて労いの言葉をかけていた。


「このまま抱いたままでは少々身体に負担がかかるじゃろうし場所を移すかの」


  少女は魔神の力を行使して五年前自身が創った世界へ転移した。その世界は見渡す限りの大草原を生み出した空間魔法による隔離と拡張による拡大空間のような紛い物ではなく、本当にどこにも存在しない世界をこの世界の外界に、この世界と隣接する形で創造した本物の新世界だ。



  所変わり、魔神ベル=ヴェルクが娯楽と癒しのためだけに構築した新世界【セラフィーヌ】。その世界は娯楽と癒しのためだけに作られたにしてはかなり作り込まれていた。いや、だからこそなのか。

  ベルとファウスト達が降り立ったのは森の中にひっそりと存在する円形に開けた湖畔のような場所だった。地面は適度に沈むふかふかのベッドのような芝生で、寝転ぶだけで疲れが吹っ飛ぶような夢心地だ。


 周囲にはまるまるとしてぷるぷるな水色のジェルのようなもので構成された、つぶらな翠の瞳がかわいらしい掌より少し大きいサイズのスライムや、まるまるとした毛玉のような身体から直接短い手足と尻尾、長いうさ耳が生えた赤い瞳を潤ませるウサギ型魔物【ボールラビット】。そして小さな三毛猫に似た子猫のような動物などがベルの膝を枕にして彼女の小さく柔らかな手で撫でられながら眠る少年を中心に輪を作っていた。スライムは互いのぷるぷるボディから伸ばした腕(指がないからこの場合触手か?)を繋いでリズミカルにダンスを踊り、ボールラビットはその小さな手でスライムをむにーん、ぐにーんと伸ばして遊んだり、むにむにとその気持ちいい感触を楽しんだりしていた。スライム自身もいい感じにマッサージのようになっているのか気持ち良さげだ。子猫は寝転んだり、互いの尻尾を追いかけてぐるぐる回ったり、スライムとおしくら饅頭したりとなんかやりたい放題していた。


  そしてそれら全てを包括する大空は闇に呑まれ、普段は大きな光により目立たない星々がここぞとばかりに自己主張し、夜空を綺麗に彩っていた。

  そんな幻想的な光景の中心に位置するに相応しい、何処か儚げで神秘的な美しさを持つ少女は膝で眠る少年を撫でながら今回の訓練を想起する。


(正直驚きを禁じえないのう。

最初は多くても三回殺せれば上々じゃと思っとったが……よもやエレメンターを完全に殺しきるとはな。

別空間から見ておった限りでは戦いにも異常なまでに・・・・・・慣れておるようじゃし、習いたての魔導も種族レイシャルスキルと併用してかなり使いこなしておった。機転もきき、解析能力も高く相手の弱点を瞬時に見抜く力にも長けておる。一体此奴は何処でこのような力を……いや、大体想像はついておるがの)


  ベルは気づいていた。この少年、ファウストが別の世界、否、別の世界線・・・・・から転生してきた存在だと。

  突然だがここで魔神達、正確には魔神以上の神格を持つもの達の中での常識的な世界論について御説明しよう。


 まず、『世界』とは世界線に内包される球状空間のことを言う。逆に言えば世界を内包する枠組みを『世界線』と呼び、その数多の世界線が樹形図のように広がって『世界樹』と呼ばれるモノを構築している。噛み砕いて分かりやすく言うと世界線という数多の管があり、その中に世界という球体時間軸に沿って連なって存在し、それらが巨大な樹木を形成していると考えてくれればいい。


  『過去』という概念はこの世界という球状空間が世界線の中で時の流れと共に一定方向に無限に増殖される連続性により生み出されている。例えるならカタツムリが通った後の粘液の跡が“過去”と呼ばれているものだ。逆に未来はその増殖現象の前兆とでも呼べるモノで、世の予知能力者達はこの前兆の一部を感知することで未来を予知している。


  ここで疑問を持った者も少なからずいるだろう。“では、未来は予め決まっているのか?そこから外れることは決してありえないのか?”と。答えは否。ここでこの疑問を解決するモノがたらればの世界論、『並行世界』という概念だ。


  世界は世界線という巨大な管の中で無限に並行分裂しているのだ。故に未来は不確定で遠い未来の予知は外れやすい。

そして、このことから“未来を変える”や“運命を変える”という行為は予め確定されていたルートAから逸れて別のルートBに乗り換えるだけとも言えるのだ。よって、本当の意味で“新たな未来を創る”などということは出来ない。もしそれができたならそれはもはや神すら越えた“何か”だろう。


  だがここでまた疑問点が出てくるだろう。“世界が無限に並行分裂すればいずれ世界線という管を破裂させてしまうのではないか?”と。その答えも否だ。世界線の大きさは不変で内積のみ無限大な上、目睫の間程の距離が永遠に等しい距離になるような法則下にあるため、世界が溢れて破裂するなどということはありえないのだ。ちなみに、魔神には世界を創造、破壊する力が等しくあるが、この際創造する世界は現在自身が存在する世界に隣接する形でしか創造できないので、あまり早い間隔で連続して世界を創造すると世界線の修正力が間に合わず、世界同士が衝突して世界のバランスが崩れてしまう。


  閑話休題。そして本来世界同士や並行世界からならまだしも世界線という管の壁に隔てられた別の世界線に存在する世界からこちらの世界にくることは通常まぁ不可能に近いことであった。しかしそれを可能にする存在がいないこともない。


  一つは人々の願いや信仰などから生まれた生まれながらの神、『現人神』、そしてもう一つは人が“原始の神”、又は“創世の神”と呼び、魔神達が『天上の存在』や『天上の意思』と呼ぶ存在である。


  現人神は言うなれば世界や世界線を管理する存在。それに対して天上の存在とは世界樹を管理する役割を為す存在だ。

  世界線を管理するほどの上位の現人神や世界樹の管理者である天上の存在なら『転生』という方法を用いて世界線を越えて移動させることも可能なのだ。本来なら転生の際に前世の記憶は完全に消去されるはずなのだが、稀に前世の記憶を残している場合や、態と記憶を残したまま転生させる場合がある。ベルはそのどちらかがファウストだと確信に近い形で推察していた。それならばファウストの異常な戦闘センス、状況判断力、洞察力、適応力、戦闘技術その他諸々に説明がつくからだ。


  常人ならまず気が付かないだろう。考えが及ばないだろう。なぜならこれは魔神の……神の領域にいる彼女だからこそ知る知識なのだから。


  常人は世界線や世界の在り方などの“世界構造”などまず存在すら知らない。知っていても一部の魔導師と大国の王くらいでそれでも触り程度しか知らない。


  だからファウストの異常性を垣間見たベルゾレフも怪訝に思った程度で別の世界線からの転生者などという結論にまでは至らなかったのだ。勿論ファウストの自主性を尊重したという面もあるだろうが、分からないというのが本音だろう。


だからこそ、ベルはこの事はなるだけ内密にしようと考えた。


“世界構造”についてなぞ知ってるものなど殆どいないが勇者召喚の儀や記憶を残した『転生者』の存在により『転生』という概念、そしてそれに付随するように別世界の存在程度なら広く、それこそ世界の常識と呼べるレベルに知れ渡っている。そして転生者はその全てが異常なまでの身体能力や強力なユニークスキルなどに加え、『神力』という神格持ち特有のエネルギーを操れる適性を持っている。


  故に気軽に話してしまえばそれだけで優秀な血と力を取り込もうと考える一部の愚かな貴族や別の世界の技術や『神力』を得ようと考える悪意を持った者達に狙われることになってしまう。

 この子はまだ幼いからその動きはさらに顕著なものとなるだろう。勇者なら国の保護を受けられるから無事だが、なんの後ろ盾もないどころか出自すらあやふやなこの子は下手をすればどこぞの悪党に捕まって廃人になるまで使い潰されてもおかしくない。それがなくとも苦労することになるのは火を見るより明らかだ。


  だから……、決めた。


「我は決めたぞ。ぬしがこれから十年間、外の世界で好きに生きられるよう鍛え抜いてやる。

……せめて、己自身と大切なモノを守れるぐらいにはのう」


  そうすれば……魔神と前代八王最強ベルゾレフの弟子だと説明して納得してもらえるようになれば……年齢を差し引いてもこの子の異常なまでの強さを納得してもらえるようになる。

  そうすれば大国の王や一部の魔導師ですら転生者という概念に行き着くことは無くなる。万が一バレて狙われることになっても魔神と前代八王最強という強力な後ろ盾で守ることが出来る上に、その頃にはこの子も自身の力で自衛できるようになっている。


「ぬしは我の大事な弟子じゃ。何をしてでも絶対に護ってやるから。今は……安心して眠れ」


  ベルは気の強そうな眼を聖女の如く優しげなものへと変えて囁いた。

  その時、ファウストの口からくぐもった声が聞こえて思わずビクッとなってしまった。


「……ぁれ?……ベル?……俺は一体どうなったんだ?もしかしてこれまた死んだ?」


  寝惚けているのか、眼をしばしばさせながら何気に転生に関わりそうな爆弾発言をポロりしやがった。寝惚けによりいつもよりさらに精神が幼児の肉体に引っ張られた結果だろう。

  だがそれよりもさっきの発言が聞かれてなかったことへの安堵の方が遥かに上回った。弟子にあんな事を聞かれたら恥ずかしくて軽く死ねる。


「何を寝ぼけておるんじゃぬしは」


  ベルはバカ弟子の不意打ちによる動揺を感じさせぬ平然とした態度で寝惚けているバカ弟子にツッコンだ。

  ベルの呆れたような声色と後頭部に感じる柔らかな感触に一気に覚醒し、ガバッと身を起こし……かけて直ぐにベルに頭を抑えつけられて再びベルの柔らかな太股に頭を埋める。


「ジッとしてろバカ弟子。傷は治してやったがまだ疲労は溜まってるであろう。今ぐらいは甘えさせてやる」


「え、いや、俺はホント嬉しいんだけど……いいのか?」


「さっきからそう言っておる。ぬしはまだまだ子供なんじゃから遠慮することはない」


(いや、子供ってベルだって俺よりちょっと年上ぐらいにしか見えないんだけど……。まぁでも魔神だし意外と歳食って……)


ゴチンッ☆


「いったぁぁあああああ!!」


「我はまだ125歳!人間の年齢で言うとたったの12歳と5ヶ月じゃバカ弟子!」


  膝を枕にして寝転んでいるファウストの表情から邪な思考を敏感に察知したベルはその小さな額に拳骨を一つ落とした。制裁を食らったファウストはまだ寝惚けてていつもの自制が効かずにいらないことを考えてしまったので「ちくしょーまたかぁぁああ!」と言いながら額を押さえて悶えていた。


  そんな時、周囲を囲っていたスライムの一団が二匹のボールラビットの頭にそれぞれ一匹ずつ乗っかり、腕を伸ばして真ん中のスライムと手を繋ぎ、まるでブランコのようにぷらーんぷらーんと揺れて勢いをつけていた。そして充分勢いが着いたところで気合を入れた二匹のスライムは腕を思いっきり振って真ん中のスライムを投げ飛ばした。投げられたスライムは放物線を描いてゆっくりと落ちる。ちょうどファウストの顔面を狙って。


ぷよんっ☆


「ぶふっ」


  額を押さえて悶えていたファウストの顔面に見事着地を決めたスライムはドヤ顔を決めた!

スライムによって鼻と口が塞がれて窒息しそうになっていたのでベルは冷静にドヤ顔を決めているスライムの襟首?を掴んでファウストの顔の上からどかそうとした瞬間。

ぺカーとスライムがファウストの顔の上で光輝き始めた。


「あ、こやつッ……!!」


「ーーーーーッッ!?(一体俺の顔の上で何が起こってんの!?)」


  ベルは少々焦った様子で光り輝いているスライムを見た。光り輝いている間は引き剥がしたくても引き剥がせないのでファウストの呼吸が続くかどうか怪しいのだ。

 ファウストの顔色が青ざめてきた頃漸く光は収まり、ベルが急いでスライムの襟首を掴んで持ち上げてファウストの顔の上からどかした。


「ぷはぁ!ハァハァ……死ぬかと思った」


「不意打ちでよく息が持ったのう。素直に感心するわ」


  ゼハァゼハァと荒い息遣いのファウストを感心した目で眺めた。


「で、アレは一体なんだったんだ?」


  息を整えたファウストは先の発光スライム窒息事件についての詳細を伺う。


「うむ、それについてなんじゃがぬしに微妙に凶報じゃ」


「凶報?っていうか微妙……?」


  目を閉じて首を振るベルに疑問気な視線を送る。

  ベルはその視線に応えるようにズイっと先程から襟首を掴んでぷらぷらとさせていた手のひらより少し大きいサイズの小さなスライムをファウストに見せる。


「こやつが勝手にぬしと主従契約を結びおったのじゃ」


「主従契約って言うと召喚魔法の?それのどこが凶報なんだ?逆に良いことなんじゃないのか?」


「うむ。普通ならな。

しかしこの世界の魔物は我が愛玩用に創造した魔物で戦闘能力など皆無。ペットとしては満点だが従魔としては赤点どころか0点なのじゃよ」


『そんなことないよ!』


  突然、透き通るような透明な少女の声が聴こえてきた。



  ……スライムから。


「まさか……お前なのか?」


  ベルに襟首を掴まれてぷらんぷらんしてるスライムに問いかける。


『ぷに!ぼくだよ!水魔法で大気中の水分を振動させて声を再現してるんだよ』


「なに?ぬしらに戦闘能力はないはずじゃが……」


ベルは使えるはずのない水魔法を使って、尚且水分を振動させて声を再現するという器用な芸当を見せたスライムに驚きを隠せないでいた。


『ぷに!確かに創造主様の仰る通りぼく達この世界の魔物達に戦闘能力はないよ。

でもね、ぼくは龍脈の収束点にして噴出口である“龍穴”を居住地兼遊び場としてこの世界に生まれてからほぼずっとそこで過ごしていたからか、龍脈を流れる力をずっと浴び続けて強くなることができたんだ!』


「なるほど……龍脈を流れる莫大な星の力を受け続けたか……。確かにそれならば愛玩魔物が戦闘魔物に化けても不思議ではないが、どうして龍脈の力ほどの莫大なエネルギーを受け止め続けることができたのじゃ?それも誕生から今までとなると五年もの間受け止め続けたということになる。通常そんなことをすれば身体がもたないはずなのじゃが……」


  ベルはスライムの説明を受けたが不可解な点があったため、顎に手を添え、虚空を見つめてすっかり考察モードに入ってしまった。元来研究者タイプであるベルはこうなるととても長い。


「あー、とりあえずお前は戦闘でも役に立てるから従魔にしてくれってことでいいのか?」


『ぷに!その通りだよご主人!

それとね……名前とか付けてくれたら嬉しいなぁ……なんて』


  スライムはチラッチラッとこちらをそのつぶらな翠の瞳で催促してくる。


「名前かぁ……」


  ファウストは考え込むベルに襟首を掴まれてぷらんぷらんしているスライムを見て考える。


(なにが良いだろう……。

日本神話から引用して“皆を笑わせたり和ませる”という意味を込めて『アマノウズメ』にするか?

いや、だいぶ堅苦しいな。

うーん、前世でも部下にこういうのはあまり考え過ぎず気楽で良いって言われたしな……よし)


「じゃあ『プニ』でどうだ?」


『プニ……ぷに!気に入ったよ!嬉しいな!ありがとうご主人!』


「気に入ってくれて良かった。これからよろしくな。プニ」


『ぷに!よろしくねご主人!』


「……なるほど。そういうことか」


  ファウストがプニに名前を与えていたところ、先程までブツブツと顎に手を添えて考え込んでいたベルが漸く合点がいったとばかりに虚空から視線を戻した。


「そういうことってどういうことなんだ?」


「此奴がなぜ龍脈の力ほどの莫大なエネルギーを受け止め続けて無事だったのかじゃよ。まぁとりあえず此奴に鑑定を使ってみるといい」


「分かった。【鑑定lv3】」



 名前:プニ

 年齢/性別/種族:5歳/♀/ドラコスライム

 職業:従魔、愛玩魔物

 スキル: 【天空神の加護】【変質lv2】【模倣変化lv2】【水分同化lv3】



「なんか色々強そうなスキルが沢山あるんですけど……てかまずプニってただのスライムじゃなかったのか!?」


「まぁ疑問が山積しておるだろうから順に説明していってやるわ。

まず、プニは元々はただのスライムだったが、長らく龍脈の力を浴びていたために進化し、龍脈の力を携えたスライム……【ドラコスライム】へと進化したのじゃろうな。

そしてスキルじゃが……」


  プニのスキルについては以下の通りだ。


 レアスキル【変質】

 身体の材質を変える


 レアスキル【模倣変化】

 見た事のあるものなら見た目を完全に真似ることができる。

 ただし、スキルや魔法の模倣はできない。


 種族レイシャルスキル【水分同化】

 種族としての限界を越えたスライムにのみ発現するスキル。

 水分に同化して身体の一部にできる。そこから派生して同化した水分を操ることも可能。


  このように、コモンですら中々獲得しづらいスキルをコモンより更に稀少にして上位であるレアスキルを三つも所持していることからプニの異常さが窺えるだろう。

  しかし、問題はそこではない。プニが五年もの歳月、龍脈の力を浴び続けていられた理由として着目したのは四つ目のスキルだ。


 【天空神の加護】

 限界の削除


  これは常時開放型技能パッシブスキルであり、説明を見る通り、限界を削除するスキルだ。

 例えば成長の限界。例えば進化の限界。例えば魔力の限界。例えば体力の限界。例えば許容量の限界。自身に対するありとあらゆる限界を自動的に削除するというスキルで、その名の通り天空神より授かりしスキルだ。


「つまりこの【天空神の加護】のお陰で許容量の限界がなくなっていくら莫大なエネルギーである龍脈の力を浴び続けてもなんら問題なかったってわけか。

だけどどうして天空神の加護が?ここはベルが作った世界だろ。それなら他の神はその内包物には干渉できないものじゃないのか?」


「うむ。通常はな。しかし相手は天空神、つまりこの世界線の全ての空を支配する『現人神』じゃ。魔神より神格が上の『現人神』なら我等魔神が創り出した世界にも限定的に干渉できるのじゃよ」

「あー、世界線やら……あらひとがみ?やら分からない単語を連発されたけど要するに格上の神ならそれ以下の神格持ちに対して限定的に干渉可能ってことか」


「そういうことじゃ」


  ベルはそういいながらこれから知っていた方が何かと便利かと思い、“世界構造”に関する知識の塊をファウストの記憶に直接書き込んだ。突然知らない知識がまるで常識であったかのような既視感で流れ込んできたため、「うわっ」と驚いていたがその後「なるほど」と直ぐに平静を取り戻して「魔神はこんなこともできるのか」と感心していた。流石に前世で数々の修羅場をくぐり抜けて来ただけはあり、その適応能力は凄まじい。


「まぁ、何はともあれ。そういうことなら戦闘面でもかなり力になってくれるってことか」


『ぷに!ご主人のためならどこまでも頑張るよ!』


  プニはガッツポーズしてその小さな身体を跳ねさせてやる気を身体全体で表現していた。実際はベルに襟首を掴まれてる為ぷらーんぷらーんと跳ね揺れてることになっているが。


「そうじゃのう。しかし、そういうことならプニはファウストとは暫しお別れじゃな」


『ぷに!?どうしてなの創造主様!』


「仕方なかろう?いくら強いとはいえ、それでもこのガチムチアイランドで100%生き残れるほどの強さを持っていないぬしは野生で強くなることは厳しい。ならば後はこの世界で龍脈の力を浴び続けるしかなかろうて」


『む、むむむ~……わかったよぅ』


  あからさまに悄気ているプニにいたたまれない気持ちになったファウストは慰めるために提案した。


「なぁ、ベル。悪いけど偶にでいいからプニに会いに行かせてもらってもいいかな?」


「……はぁ、仕様がないのう。ぬしにも珠の息抜きは必要じゃろうからな。休息時ならこの世界に招待してやる」


「ありがとうな。ベル」


「気にするでない。ぬしにも必要だと思ったから許可しただけじゃ」


  素直に優しさを見せられないベルの頬に手を添えて笑いかけながらお礼を言うとベルは恥ずかしげに目線を逸らし、その様子を見てプニは『ぷににににぃー!ぼくを差し置いて甘くなるなー!』とぷらぷらと揺れていた。




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