第8話 すごく……大きいです……。
「さぁ、ファイナルラウンドだ」
ファウストはまず、初めて使う【龍鱗鎧lv1】に慣れるために距離を取った。いきなり慣れていない力で接近戦を挑んでも敗北するのは目に見えてるからだ。しかしその際想定以上の脚力を出してしまったため、思っていた以上に距離を取ってしまった。どうやら身体強度、身体能力共に上昇しているようだ。体感で凡そ一・五倍と言ったところか。
エレメンターは逃すまいと三機の結晶体からそれぞれの属性に対応した、“圧縮した属性魔力を直接放射する”魔法
「ここまで身体能力が上昇するのか……よし次は、アレを試すか」
ファウストは偶然にも距離を取りすぎてしまったことを幸いに、躱しやすくなったエレメンターの魔法を躱しながら、【龍鱗鎧lv1】を発動してからずっと感じていた体の奥から感じる魔力とは別種の力を引き出した。
すると、身体から黒い瘴気のようなものが湧出してきた。
「これが
痺れを切らしたエレメンターは闇魔法を用いた“空間Aと空間B間の空間を重力で歪曲させることで距離を省略する”空間歪曲魔法
しかし、ファウストはそれを重力を増大させることで下方へ逸らすと同時に自身にかかる重力を軽減してジャンプで躱し、そのまま
「空属性を喪失させたから距離は詰められにくいと思って油断してたな。だけど、一つ撃墜させてもらったぞ」
その言葉通り、ファウストを奇襲した結晶体の内赤色の結晶体が破壊されていた。三機の結晶体による奇襲攻撃を躱しながら赤色の結晶体に重力を乗せた爪撃を浴びせ破壊していたのだ。
しかし、藍色の結晶体が光ったかと思うと、撃墜された赤色の結晶体が時間を再生するように巻き戻っていき、元の状態へと戻った。
「生物じゃないから時間再生するとまた動き出すのかよ!」
これが生物ならいくら時を巻き戻しても傷だらけの死体が綺麗な死体になるだけで蘇りはしないが、赤色の結晶体は非生命体、云わば遠隔操作兵器のようなもので、機体を再生すればまた使えるようになるのだ。
「まずは藍色の結晶体から破壊する必要があるな」
そう考えていると、今度はエレメンターが
そして褐色の結晶体が瞬いた次の瞬間、三機の結晶体とエレメンターを巻き込む形で地面が隆起していった。隆起した地面はどんどん大きく頑強になり、その形を形成していく。それはそれなりの高さで滞空していたファウストとほぼ同程度の大きさで、小さな山のような巨大なゴーレムだった。小さな……と言っても山は山だ。その大きさはおそらく百メートルは優に超えているだろう。
ゴーレムは形成が完了すると同時に動き出し、あまりの大きさに唖然としているファウストにその巨大な拳を振りかぶった。
ファウストは咄嗟に躱そうとするが思いの外速く、そして拳も大きいため躱しきれないと判断したファウストは攻撃を逸らすことにした。
「
闇の
ファウストはそれを高空を飛び回り、時に重力を掛けて逸らすことで避けつつ、ゴーレムをどう倒すか考えていた。
(藍色の結晶体を破壊すりゃ後は流れで倒せると高を括ってたが甘甘な考えだったな。ああなられちゃまず何処に藍色の結晶体がいるのかすら皆目検討もつかないぞ。
いや、そもそも結晶体がゴーレム内を流動している可能性だって十分ありうる。
ッッと、
ファウストの言う通り、
(藍色の結晶体の居場所さえ特定できればなんとかなるが……ん?ちょっと待てよ。そういえば一般的な探知魔法は魔力を放出してそれに反応した魔力を感じ取る魔法だったよな。ならそれを応用すれば魔力によるサーモグラフィーのような魔法で藍色の結晶体の居場所を探知できるかもしれない。取り敢えずちょっとやってみるか。
ファウストは“サーモグラフィーをイメージした魔力版サーモグラフィー”
(クソッ、
しかもアイツこのことを見越してか全身に重力バリアを張って自動防御すると同時に探知魔法でそれぞれの居場所を特定できないようにしてやがる)
断続的に襲いくる
「魔法はイメージだ。集中しろ。全神経を眼に集中させろ。イメージしろ。余分な物を排斥し、望むものを選別しろ」
ファウストは諦めずにさらに、さらに魔力を、イメージを研ぎ澄ましていく。全神経を視覚に注いでさらに鮮明に、さらに明確に視認するように。余分な色は排除。望むものは敵の位置情報のみ。
すると、ファウストの両眼から血が流れ出し鋭い痛みに苛まれた時、突然視界が灰色になり、三機の結晶体とエレメンター本体の位置がまるでレントゲン写真のように見えるようになった。痛みに耐えかねたファウストは魔法を中断して眼を抑えた。
「ぐっ…なんだこれは……新しい魔法が構築できた……のか?でも、魔法にしては何か違和感を感じるような」
疑問に感じたファウストはもしかしたらと思いステータスを開いた。
名前:ファウスト・オルズ・レガリア
年齢/性別/種族:5歳/男/闇龍の龍人
職業:ーー
スキル:【龍鱗鎧lv1】【闇の加護】【鑑定lv3】【魔の適性】【魔力視】【限越稼働】
(スキルが一つ増えてる。しかも位置的にこれはレアスキルか!
こんな簡単にスキルが取れるのは異常じゃないのか?
ベルはそう簡単に取得できるものじゃないって言っていたが……。まぁ今は気にしないで取り敢えず詳細を見てみるか)
ファウストは
【魔力視】
魔力の濃度、色、流れを視認できる魔眼。視認する魔力を取捨選択できる。
(さっき作った
新たに獲得したスキルを理解したファウストは【魔力視】を発動して藍色の結晶体の位置を探った。三機の結晶体とエレメンターの位置をピンポイントで探るよう意識すると、雑多な情報は制限されて対象の位置のみを照らし出した。視界は灰色になり、ゴーレムの左肩部に藍色の光点、右脇腹に褐色の光点、右脛に赤色の光点、延髄に黒色の光点が浮かんだ。
「見つけた」
(だけどこのまま突っ込んでも勝ちの目は低いだろうな。ここは布石を打っておくか)
ファウストは闇の
ゴーレムも向かい撃とうと、全身に大量の土の砲門を形成し、その全てから闇、火、地、時属性の魔法弾を発射した。それは弾幕となり、ファウストを襲う。
避けきれないと判断したファウストは
(即興で魔力を圧縮して防御璧を展開したが脆いな。要改良っと)
魔力障壁の改善点を心中にメモをしながらファウストは弾幕をくぐり抜けていく。その間にも大なり小なり魔法弾は被弾し、どんどん魔力障壁が削られてボロボロになっていく。そして遂に真正面から魔法弾が直撃して魔力障壁を砕かれた。
しかし、問題ない。
既にそこはファウストの射程圏内なのだから。
「煌鷹流総闘術【黒龍爪】」
ファウストは闇の
このように状況に即座に応じてそれに即した技を生み出す又は基本技を変型させ、その付け焼刃とも言える技を最初から最高練度の技とするところにこそ煌鷹流総闘術の強みがある。故に才ある者の中でも一握りの者しかこの武術は扱えないのでいつ滅びてもおかしくない武術でもある。
ゴーレムは【黒龍爪】によって右肩部を大きく引き裂かれて、内部に潜んでいた藍色の結晶体も破壊された。
再生の要であった藍色の結晶体を破壊されたゴーレムは激怒し、即座に激しい重力の乱流を起こして、それにより出来た隙を突いて左手でファウストを掴み、そのまま握り潰そうと力を込めた。
メキメキビキッッ
「ガッァァアアアッッッ!!」
身体中が軋み、骨に罅が入る音が骨伝導で聴覚に生々しく響く。
このままじゃ握りつぶされると感じたファウストはリスクを承知で【限越稼働】を左足だけ発動した。
そして【限越稼働】を発動し、蒼い電光を迸らせている左足に思いっきり力を込めてゴーレムの手を破壊した。しかし、その際限界を超えて酷使された左足は激しい痛みに襲われた。
(クソッやっぱり反動がでかいな)
ゴーレムの手を破壊した一撃により折れた左足を気にしながらもファウストは一気に勝負を決めるべく、全身の痛みを我慢してゴーレムの右脇腹へと急いだ。当然ゴーレムも全砲門からの一斉射撃で牽制するが、ファウストはそれを全身に魔力障壁を張り防いでいく。
しかし、事前にルートを先読みしてエネルギーを溜めていたのか、一際威力の高い魔法弾による一撃を受けて魔力障壁が破壊されてしまう。それに一瞬怯むも、まだまだ弾幕は止まない。怯んでなどいられないのだ。
ファウストは今度は先のゴーレムの手による攻撃で骨に罅が入ってしまっていた左腕に闇の
自身の限界を越えた一撃は左腕の骨折と引き換えにゴーレムの山のように広く大きい体表面を、そこに乱設された砲門を遍く吹き飛ばして更地にした。
そうやって作り出した空白の数秒を使い、右脇腹へと到達したファウストは接地し、右手をゴーレムごしに褐色の結晶体に重なるように置いた。
「煌鷹流総闘術【鎧通し】」
この【鎧通し】は改良が施されており、氣の衝撃だけでなくすり鉢状の魔力波を叩き込むことにより、さらに破壊力と貫通力を増大させてエレメント系の魔物にも通用するようになっていた。片手で放たれた【鎧通し】は不安定で本来の威力は出せなかったが、技量で補ったすり鉢状の魔力波は正確に、褐色の結晶体を貫き破壊した。
褐色の結晶体が破壊されたからか、ゴーレムは力を失ったかのようにぐったりとし、自重に耐えられなくなって崩壊していく。見上げると、そんな崩壊していくゴーレムの中にヤツはいた。
「さぁ、決着をつけようか。エレメンター!」
エレメンターは無言で、しかしその無機質な瞳は雄弁に語っていた。“これで最後だ”と。
エレメンターは赤色の結晶体を引き寄せた。赤色の結晶体はその身体をこれまでで一番眩く発光させ、おそらく最後であろう一撃を放った。放たれた魔術の名は【
放たれた最早巨大な熱線とも言える炎に対してファウストは息を大きく吸い込んでいく。大きく息を吸い込むことで取り込んだ空気中に漂う『自由魔力』を体内で
「
身体の中で練り上げた闇の
闇の
しかし、少しずつ【
そこでファウストは最後の切り札を切った。
(これで……押し切る!【限越稼働】……発動!!)
蒼い電光を迸らせ、【限越稼働】は発動された。その副作用により、血管や筋肉に過負荷が掛かり損傷するも、それによって強化された
だが、そのブレスを放ちきった後の一瞬の硬直を突くように
(間に合え!!)
「
エレメンターの深淵の剣がファウストに届くかと思われた時、天から一筋の光が迸りエレメンターを頭から貫いた。エレメンターの上空では純白の魔法陣がその役目を終えて光の粒子となり儚く消えていっていた。
エレメンターは光の筋によるダメージから全身に罅を走らせながら少しずつ砂となっていきながら、突然の予期せぬ攻撃に呆然としていた。
「何がなんだか分からねぇって顔だな。なに、簡単なことだ。藍色の結晶体を倒しに特攻した時に弾幕を避けながら空中に魔術の魔法陣を描いていたのさ。後はその射程圏内にお前が来るように闘いながら誘導して呪文を唱えるた。それだけだ。最後思いの外【限越稼働】の負担が大きくて刺されかけたけどな」
ファウストは危うく負けかけた自分のドジに苦笑した。
エレメンターは崩れゆく中、最後にファウストと眼を合わせ、そして塵となり消えた。その眼には“認める”という意志が感じられた。
塵となり儚く消えゆくエレメンターを見届けた後、緊張の糸が切れたファウストはそれまでのダメージもあり、浮遊への意識が途切れ、そのまま瓦礫の山へと自由落下していった。
もう浮遊に割く力すら残っていなかったが、意地の力でなんとか再び浮遊しようと試みるも、子供の身体のせいか身体に力すら入らず、そのまま意識も薄れていってしまった。
意識を失う寸前、瓦礫の頂上で先が淡く燃える雪の髪を持つ少女に抱きとめられ、『お疲れ様』と労われた気がした。
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