第2話 流れ着いた子供
1
コンコンッと戸をノックし、室内の人物に「入りな」と入室許可をもらった筋肉隆々のまるでアメリカンコミックのヒーローのような出で立ちの男は左肩に虎豚、右横腹に少年を抱えているので足を器用に使って戸を開けた。中は医療機関然とした内装で、部屋に備え付けられた棚の中には薬品と思われる液体、乾燥した薬草や生き物が入ったビンなどが保管されていた。
部屋の入って右側には、窓辺に幾つもの薬草や花などの植物が植えられた植木鉢が置かれた大きな窓があり、そこから心地良い陽射しが差し込んでいた。
そしてその窓際に配置されている机に男の目的の人物はいた。
劇画的な様相で、若い頃は美人だったと思わせる程現在も尚その美しさを感じさせる
彼女は昔っから男嫌いで有名な人物であったが、患者は絶対に見捨てないということでも有名であり、なにより島の医者は彼女だけだったため頼ることにしたのであった。
老婆は椅子に座って読んでいた【闇龍族の第二王子、未だ見つからず】という見出しの新聞を畳んで、入ってきた男に目をやった。
男の姿を見て即座に目的を察した老婆は「タイブー《虎豚》を部屋の外に置いて患者をベッドに寝かせな」といい、診察の準備に取り掛かった。
2
「この子の容態はどうですか?」
老婆は診察を終えると棚を漁りながら答えた。
「別に対したことはないよ。外傷もないし、過度の疲労と魔力回路の損傷で衰弱してるだけさね。
ま、あともう少し遅ければこの坊やは逝っちまってたがね」
彼女はそういいながら少年に棚から持ってきた薬品を投与した後、服を脱がせて上半身を露わにする。外気に晒された腹部に魔法陣を想わせる特殊な紋様を描き、幾つかの薬草を配置して治癒魔術を発動する。淡い緑色の光に少年が包まれ、数秒の後に光は緩やかに収まった。
必要な処置を終えた老婆はベッド脇の椅子に腰掛ける。
「そうか、間に合って良かった!
ーって魔力回路の損傷!?大丈夫なのそれ?」
「伊達に長生きしてないよ。この程度の損傷ならもうもう問題ない。明日には動けるよ」
そっか、よかったぁ、と改めて安堵の息を漏らす男に「ところで」と老婆は前置きし、安堵の表情を浮かべる男を睥睨した。
「この子は一体どこから来た何者だと見るね。
ガチムチアイランドの近海はAランククラスの海獣がうようよいる上に海流は荒れに荒れてそれだけで普通なら死んじまうだろうに。
誰かに空属性魔法で飛ばされた可能性もなきにしもあらずだが、周辺五十キロには島どころか岩場すらない。そこらの魔導師じゃまず無理だろうね。
かと言ってそれが可能な八王の連中も今はアレスを残して全員空席でそのアレス自身はここまでの空間転移系魔法は使えない。
残りの可能性として冥府の王がいるが、アイツは酔狂で子供をこんな危険地帯に転移させるような奴じゃないしねぇ」
「それなんだけどね。私は彼は時空断層に巻き込まれたんじゃないかと見てる。
時空断層は数十年に一度龍脈の魔力が漏れることで発生する極めて珍しい時空転移現象だけど、君がさっき推測したように彼等が関与していない以上この距離を転移するとなるとそれ以外方法はないしね」
「確かにそれなら一理あるね。
少なくともあの放浪魔導師や召喚爺が転移させるよかよっぽど説得力がある。
時空断層に巻き込まれたなら膨大な量の魔力を急激に注がれて魔力回路が損傷することにも、それによる過労にも説明がつくしね。
しかし最たる問題は状況ではなくこの子自身だね」
「この子がどうかしたのかい?」
男は首を傾げキョトンと見た目に似合わず子供のように疑問を表現していた。
「この子の種族は
「へぇ、珍しいね」
「珍しいのはまぁ珍しいけどね、問題はそこじゃない」
龍人には魔力属性と同じで『火』『風』『地』『水』『時』『空』『光』『闇』の八種類いる。
それぞれ
「そして本題はここからだけどね、龍人ってのは本来親子間の繋がりが強い種族で常に普通では感知できない極細の魔力回線のようなもので繋がってる筈なんだ。
だけどこの子にはそれがない」
「そりゃあ、時空断層に巻き込まれたんだからその時にぷっつり切れてしまったんじゃないかな」
「恐らくね。だから本来なら魔力回線を辿って親の元へ帰ることができるのにこの子はそれができないんだ」
「えーと、つまり何が言いたいの?」
老婆はビシっと指差し言った。
「 お 前 が 育 て ろ 」
と。
「ファッ!?私育児経験ないんですけど!?」
「んなもん弟子育てる感覚でやりゃいいんだよ」
「いや、弟子とはまた違ーー」
「ずべこべ言わずさっさと帰りな!!」
「理不尽!」
男はベッドに寝かされていた男の子を抱えさせられ、物凄い力で背中を蹴り飛ばせれて部屋から追い出されてしまった。少年諸共追い出されてしまった男の背中には僅かばかりの哀愁が漂っていた。
「ま、なんとかなるでしょ!」
男は生来の楽観的思考でもって気持ちを切り替える。くよくよと先行きに不安を感じていたところで少年をも不安にさせてしまうだけだ。明るく、前向きに、元気よく!という自身のモットーの元、少年をおんぶし、HAHAHAと笑いながら自宅への帰路へ着いた。
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