第165話 ラッキーボーイ
「理佳子、先行ってるね」
そう言って本田麻衣が理佳子を置いてさっさと行こうとする。
「ちょっと待ってよ!置いてかないで!」
理佳子も振り返り麻衣と歩き出した瞬間
「ちょっと待って~!」
そう言って理佳子に手を振った少年が走って理佳子の元へ寄ってくる。麻衣が理佳子の方を向いて
「ほら、ちゃんと相手してあげな」
そう言ってまた立ち去ろうとした時、理佳子が麻衣の腕を掴んで必死に目で訴える。
「わかった、わかった…一人にしたらどうしていいかわからないのね?」
理佳子がコクッと頷く。
走りよってきた少年に続き他の理佳子ファンもゾロゾロと我先に駆け寄ってくる。
「あの!夏休みに入る前にお話だけでもさせてください!」
「LINE交換しませんか?」
「僕は番号交換お願いします!」
「お前ズルいぞ!」
「早い者勝ちだ!」
その時
「ちょっと待てぇ!ファンクラブ会長を差し置いて勝手な真似は許さん!」
「うるせぇ!石井は黙ってろ!」
「石井はって…俺は先輩だぞ?」
「お前なんか理佳子先輩が止めなかったらとっくにぶっ飛ばしてるんだからな!」
「はいはいはいはい!そこまで!」
そう言って麻衣がこのファンクラブの喧嘩に割って入った。
「君達、それでも理佳のファン?こんなに理佳が困ってんのにワァーワァー騒いで…そんなのファン失格ね!ファンならファンらしくモラルを守りなさい!」
「と、言いますと?」
「先ずは相手に迷惑かどうかをちゃんと考えること!いい?好きな相手なら相手の気持ちを汲むこと!相手の気持ちを踏みにじるのはファンとして一番最低なこと!それから…理佳子との握手会はマネージャーの私の許可を得ること!」
「ちょっと麻衣~…」
「理佳に番号だのLINEだのって、一方的にプライベートに踏み込みすぎ!それは自己満足であって、相手の立場になって考えてない証拠よ!」
理佳子ファン達がこの麻衣の説教に圧倒されている。
「ファンの握手会はマネージャーの私が認めます!」
「麻衣!そんなの私…」
麻衣は理佳子を手で制して
「その代わり…理佳子に迷惑になるような付きまといとかは禁止!」
「り…理佳子先輩と握手出来るなら約束守ります!」
「お…俺も!」
「俺も守ります!」
「握手させて下さい!」
ざわざわとして、ファン達がみんな自分のズボンで手の汗を拭く。
「麻衣…何で…私何も良いなんて言ってない…」
麻衣がそっと理佳子に耳打ちした。
「変に付きまとわれるよりも手っ取り早いでしょ?これで追い返しちゃいましょ!」
「もう~…」
「はい、じゃあ並んで並んで~!」
ファン達が我先にとまた順番で揉めている。
「ハァー…そんなんじゃ握手会はナシね…サヨナラ!」
「待ってください!会長の僕が順番決めます!背の低い順で行こう!」
「はぁ?何でよそんなのズルいぞ!」
「良いから、背の低い順に並べ!」
そう言って真っ先に石井が先頭に立った。そして理佳子の方を向いた瞬間…自分の目の前に目線よりも低い位置に頭が見えた…
「何で俺より小さい奴が居るんだよぉ~」
その石井の前に並んだ少年はただの通りすがりの一年生だったのだが、背の低い順に並べと言われて訳もわからず並んだだけだった。
「はい、じゃあ君からね!」
そう言って理佳子と最初に握手出来た超ラッキーボーイであった。
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