第148話 薫を案ずる黒崎

「ちょっとあんたに関わりそうな耳寄りな情報持ってきたんだよ!あんたなら知ってるだろ?安藤って名を…」


コイツ…何者だ…このタイミングでその名を出してくるなんて…ちょっと話が出来すぎだ…薫の知り合いなのか?


「安藤?知らねぇな…」


「そうか?じゃあ矢崎薫は知ってるよな?実は安藤って奴があんたの他にその薫って女のことも標的として狙ってるって話を聞いたから…その女に伝えて欲しいんだ!」


重森の知り合いなのか…それなら自分で伝えればいいものを…何故俺に託す必要がある?


「何を?」


「安藤の件には絶対に関わるな!息を潜めてやり過ごして欲しいって…」


これは完全に重森の味方として見て間違いないだろう…重森を擁護しようとしている。


「あぁ、それは俺がアイツを止めるから心配要らない…それよりあんた誰?」


「武田…武田剛…じゃあ宜しく頼んだよ!」


その武田と名乗った男はクルッと振り返り手を上げて立ち去ってしまった。


「黒ちゃん、あいつらには先に帰るって言っといた!行こう!かおりちゃん家に…」


「小山内…武田って名乗る男が…」


その瞬間小山内は目を見開き恐れおののいた表情で


「黒ちゃん!何でその名前を!」


「いや、今…」


「やっぱりエスパーか!」



「どうだったよ…影武者の方は…」


「なかなか肝が座ってるな…あいつ…」


薫…お前が鍛え上げた黒崎…流石は只者ではないな…それだけじゃ無いんだろうが…


「しかしあの安藤も蛇のようにしつこい奴だな…お前にも絶対来るぞ!」


「今回は薫が心配なんだよ…あいつが頭に血が登って取り返しの付かないことになるのは絶対に避けたい…あいつなら刺し違えてでもってなりそうでな…」


「やってくれるかな…あの影武者…薫の暴走を上手く止められると良いんだが…」


「その前に俺たちが安藤を止められれば問題はない!」



小山内と天斗が薫の家に到着したが家の中に電気が付いてる様子はない。居ないのか?


「黒ちゃん…ちょっと行ってくるわ…」


小山内は一人アパートの階段を上がり玄関のチャイムを鳴らす。しかし何の反応も無かった。


「黒ちゃん、ダメだ…」


天斗はある場所を思い付いた。


「小山内、多分あいつはあそこに居るはずだ!」


そう言って小山内を手招きして呼ぶ。

天斗は薫の心境になって考えてみた。こういう時は何の雑音もない静かな場所で一人になりたいもんだよな…

二人はある場所へと向かった。



剛…やっとあんたの仇を打つ機会が訪れたよ…

薫は自分の手に付いた剛の血を思い出すと震えが止まらなくなる…徐々に自分にのしかかる剛の体重…思い出せば出すほど怒りが沸き上がってくる…刺し違えても構わない…アイツを殺したい…

薫は河川敷で体育座りで座り込んで顔を伏せて泣いていた。

その時


「お、居た居た!重森~!」


薫は慌てて涙を拭いその場から立ち去ろうとする。


「かおりちゃん!待ってよ!」


小山内の制止に薫は背を向けたまま立ち止まった。

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