第119話 英雄と呼ばれた男…矢崎 拳
小山内と薫がリビングに入るとテーブルにはたくさんの写真が並べられていて、小山内の両親が懐かしそうに思い出に浸っていた。
「ねぇ、ちょっと見てみ見て!母ちゃんとパパの若かりし頃の写真!」
お母さんの十代の頃だろう、めちゃくちゃヤンキーでいかにも喧嘩に明け暮れてましたという感じがする。
一方お父さんの方はいたって真面目な少年という、あまりにもミスマッチな両極端の二人だ。
いったいこの二人はどうやって知り合ったのだろう…
「母ちゃん、怖ぇ~!目が危ない…父ちゃんは…」
そう言って小山内が吹き出す。
「パパは優等生だったんだよ!」
薫は吹き出すのをこらえるのに必死だった…この人が優等生!?まるで清そのものなのに!?
「いや、無いでしょ!父ちゃん俺より天然だし!」
「父ちゃんはなぁ、勉強だけは出来たんだよ」
「そうなの、勉強はいつもトップクラスだったみたい。でも、しょっちゅう喧嘩に巻き込まれるタイプというか…気づいたらその渦中に居るというか…ちょっと不思議な能力を持った人で…」
「そこで吟子さんが俺を助けてくれて恋に落ちちゃったんだよねぇ~」
「よくこんな怖い人に恋に落ちたな…父ちゃん…」
「私ももこんな弱い人に惚れるとは思って無かったけど、なんか守ってあげたくなるようなフェロモンが出てるのよねぇ…」
「お母さん、それ何となくわかる気がします。清は弱くは無いけど、でも何とかしてあげたくなるようなフェロモンみたいなの感じますから」
「アッハハハハハ、かおりんも変わってるわねぇ…ほんと物好き」
「いや…母ちゃんの方がよっぽど…」
そして薫は写真を目で追っていくと…ヤンキーの集合写真があった…そして…
「えっ!!!」
薫の目に飛び込んで来たものは…若かりしし頃の父、矢崎拳やざきけんだった…
「ん?どうしたかおりん?」
薫はしばらく固まってしまった。小山内のお母さんと肩を組んで写っている父…どういう関係なんだろう…
「この人は…」
そう言って薫が指差す。
「あぁ、拳さんね。この人は英雄と呼ばれた人なの。ヤンキーみんなの憧れの存在だった…言ってみれば正義の味方みたいな感じ。私達みたいにグレた若者は度々ヤクザ者にも目を付けられてね…そういう時は必ず拳さんが盾になって守ってくれたのよ…誰にも真似出来ないようなことを、自分の危険を顧みずやってのけた…だから英雄」
「英雄…」
小山内が何か言いかけるのを薫が制止して
「へぇ、それでお父さんとお母さんの出会いのエピソード知りたい!」
薫は父のことを深く知りたいとは思わなかった。
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