第118話 バカ流ムード作り…崩壊

薫は小山内から勝手に家に上がって来るように言われていた。

玄関のドアを開けてそーっと身体を滑り込ませる。鍵をかけて二階の小山内の部屋へと階段を登る。


「清~…」


小声で名前を呼んで静かに部屋のドアを開ける。中は真っ暗で何も見えない。

もしかして清寝ちゃった?


「清~…」


もう一度薫は小声で呼んだ。


「かおりん…こっち…」


暗がりの中から小山内の声が聞こえる。


「清?なにしてるの?」


「ムード作ってる…」


「………ムードって…何の?」


「かおりん…そこまで男の俺に言わせるのかい?」


薫はパチッと部屋の電気を付けた。部屋の中はパッと明るくなり、小山内は布団の中で眩しそうにしかめっ面をしている。


「清…何してるの?」


「もう…せっかくロマンチックなムード作りしてたのに~…」


「清…こういうのはロマンチックとは言わないと思うけど…」


「え?だってAVとかでよくこういうシチュエーションあるよ?」


「んー…そういう発言自体ロマンチックに欠けるなぁ…もっと徐々に盛り上がっていって、ドキドキな時間がクライマックスを迎えた時にキャーって言わせるような…そういうのがロマンチックなんだよねぇ…」


「そっか…徐々にね…」


「そうそう」


「デーデン………デーデン………デデ、デデ、デデ、デデ、デデ、デデ、デデ、デデ、デデデ~!」


「ん、んー………確かにね…確かに徐々に迫り来る感じで盛り上がって行くんだけど…ジョーズとはまたちょっと違うんだよなぁ…」


「んー…ドキドキ感を表現したんだけど…」


このズレた男にどう説明すれば伝わるんだろう…


「清ちょっと起きて!」


「はい…」


小山内はしぶしぶ布団から出て、足を伸ばして座っている。そこへ薫は小山内の足の上に座り小山内に抱きついた。


「か…かおりん…」


小山内は興奮して鼻血が出そうなのを必死にこらえる。


「清…このまま居させて…」


薫は小山内に抱きついたままその温もりを感じている。小山内も薫の柔肌を抱き締めてその感触に幸せの絶頂に浸っている。


「清…」


薫は目を閉じて小山内に顔を近づけた。小山内は薫の柔らかい唇に口付けをする。

長い沈黙、薫は小山内のキスで淋しさが和らいでいく。そして思わず涙がこぼれた。

その涙は薫の心の中で複雑に絡み合う想いが溢れ出したものだった。


「かおりん…」


小山内はその涙を感じながら、無言で察し薫を強く抱き締めた。

まだ…きっと…かおりんの中では忘れられない存在がどこかにいるんだろう…だとしても、それでいい…それで良いんだ…俺はお前を一途に想い続けると約束したんだから…それは例え何があろうと決して曲げることはない!


「清…」


「かおり…」


その時


「清~、かおりん~、ちょっと来てぇ~」


それは小山内の母、吟子の声だった。

二人は目を合わせてため息をついた…


「はぁい」


二人は階段を降りてリビングへと向かう

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