第115話 手編みのマフラー

「あら、聞こえてたの?うーん…最近ね、理佳子が誰かにストーカーされてるような感じがあるみたいで…確信はないんだけど心配でね、警察も何か起きてからじゃないと対応してくれないし…」


「やっぱりそうだったんですか…」


「え?やっぱり?って?」


「いや、やっぱりってわけじゃなくて…その…理佳子の様子が変だから…」


「理佳子はたかちゃんに心配かけたくないから何も言わないって言ってたのよねぇ…たかちゃんが側に居てくれたら心強いんだろうけど…」


「………」


「ただの気のせいならいいんだけどね…」


「何かあれば必ず僕が理佳子を守りますから!」


「ありがとう!おばさんも、たかちゃんだったら理佳子を嫁に出したいと思うわ」


そう言って優しい笑顔を向けてくれた。

やっぱり綺麗だ…色白で理佳子によく似てる。

理佳子に大人の色気を足したらこんな風になるんだろうなぁ…将来の理佳子を想像してしまった。


「おばさん…僕の母さんも理佳子をすっごく気に入ってお嫁さんお嫁さんって言ってます」


そう言って二人は笑った。

そして理佳子が風呂場から出て来て


「二人で何楽しそうに話してるの?」


バスタオルをまとっただけの姿で理佳子が脱衣所から顔を出した。


「理佳子をお嫁にもらってねって頼んでたのよ」


「お母さん、そうやってたかと君にプレッシャー与えないで」


理佳子は湯船でそうなったのか、今の話でそうなったのか、色白な顔を真っ赤にして言った。

俺達は二階に上がり


「たかと君…夕飯済ませたらイルミネーション見に街へ行かない?」


「おっ、良いね!そうしようか!」


その時


「ご飯よぉ~、降りてきて~」


理佳子の母さんの声が聞こえてきた。

三人は食卓テーブルを囲み椅子にかけた。


「おじさんはまだ帰られないんですか?」


「あの人はいつも残業で遅いの。だから気にしなくて良いのよ。さぁ頂きましょ」


テーブルに並べられたオードブルを見て俺は驚いた。


「これ…おばさんが全部?」


「お母さんは料理が好きなの!いつもこういうのはお母さんが作るの」


「へぇ~凄いなぁ…」


「理佳子も手伝ってくれればもっと楽なんだけどね」


「お母さん…私だってたまに手伝うじゃん…」


「さ、食べて」


「いただきまーす」


そう言ってオードブルを順番に味わう。どれもこれも凄く美味い!


「美味しいです!凄く美味しい!」


俺はまるでシェフが作ったかのような料理の美味さに感動した。


「あら、嬉しい!ありがとう」


「私もいつかお母さんに負けないぐらい勉強してたかと君に食べさせてあげるね!」


「頼むよ理佳子!毎日こんな美味しいご飯が食べられたら幸せだよ!」


そして団欒の時間が終わり俺達は出かける支度をする。

その時理佳子が


「たかと君…これ…」


そう言って理佳子が手にしたものはいかにも素人が苦労して編み上げたであろう水色のマフラーだった。


「もしかして…理佳子が編んでくれたのか?」


「うん…私はピンクのやつ…」


形は若干いびつに仕上がっているが、理佳子の気持ちがひしひしと伝わって来る。


「理佳子…ありがとう!!!凄く可愛いよ!」


理佳子は照れなら


「初めて編んだから上手くいかなくて…ちょっと形は変だけど…」


俺は無言で理佳子を抱き締めた。

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